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【完結】オネエ様と一緒!~厳ついオネエと追放令嬢のぶらり途中気まま旅~  作者: 清水ゆりか
第二章 北のとある寒村事情

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11 野営

 食料も一緒に調達して来たジェイは、出来る隠密であると思う。


 セレスティーヌに配慮し、綺麗に切り分けられた肉が氷とともに保冷袋から出て来る。そして先に近隣の集落もいくつか回ったようで、リュックの中から野菜や豆が面白いように出て来た。


「これでごった煮スープでも作りましょう?」


 そう言うとジェイは石を組んで簡単に竈を作り、渇いた枝や藁などを入れ、あっという間に火をつけた。

 今は鼻歌を歌いながら魚に串を打ち、塩を振っている。


 貴族令嬢ではあるが料理の出来るセレスティーヌが野菜を調理していた。

 そして超高位貴族である筈のアマンダも、スルスルとじゃが芋の皮をむいている。


「……アマンダ様、お料理出来るのですね」

「簡単なものしかできないけどね」


 意外に手際のよい様子に感心しているセレスティーヌに、ジェイがニヤニヤしながら教える。


「行軍で習ったんすよね?」

「行軍」


 そう言えば、アマンダの護衛だというカルロは騎士服を着ていた。

(……アマンダ様はカルロ様の上司ですもの。訓練も行軍もするのだわ)


 金の巻き毛のヅラを揺らしながら行軍する姿を連想し、急いで頭を振った。

 流石に騎士団の中では地毛であろうと思い直す。


「みんなと同じにと言って無理やり参加して、無理やり同じ仕事を熟したんですよね?」


 管理職にも色々あるが、上の更に上の方の人間は行軍などしないもの。


 出来ないと言われるのが嫌な若かりしアマンダ少年は、止める周囲を振り切って行軍に参加したのだ。何度も。


 普段から訓練にはちゃんと参加しているアマンダ少年だったが、流石に何十キロもの荷物を持って行なわれる行軍に参加するとは誰も思っておらず、かなりびっくりされたのは懐かしい思い出だ。


 アマンダとしては「すべきことはきちんとする」のがモットーであり、何かあった時に「出来ない」は許されないということを知る少年だというだけなのだが……


 足手纏いと思われたくない。守られる立場だということは重々承知しているが、いざという時に動けなければ、己が周囲全体を窮地に陥れる存在でもあるということを知っている少年だったのだ。


 頑固な息子に苦笑いをした彼の父親に、存分に可愛がってやれと言われて騎士団の人間の方が困っていたのは笑い話だ。


 すくすくと育ったものの、どこかで方向転換したらしく、今はピンク色したワンピースを纏い芋の皮をむいている。


「自分だけ出来ないなんて、嫌じゃないのよ」


 そう言って膨れながら剝き終わったじゃが芋をセレスティーヌに渡した。

 型だけは可愛らしい格好をしているアマンダだが、厚い胸板と逞しい二の腕が、今も鍛錬を欠かしていないことを物語っていた。



 美味しく出来たごった煮スープと川魚の塩焼き、そしてパンを食した三人は、再び過疎の村の話をした後に眠りについた。


 テントは恐縮するセレスティーヌに譲り、アマンダとジェイは毛布を被って火の側に転がって眠ることにする。獣除けの為に火を絶やすことが出来ないので、ふたりが交代で番をするのだ。


 夜も更けた頃、セレスティーヌは小さな声に目を覚ました。

 林の中なので夜行性の動物たちの声が遠くに聞こえてはいるものの、注意深く耳をすませなければ聞き取れない程の鳴き声だ。


 テントから出て来たセレスティーヌにジェイが気づき、声をかける。


「どうされました? 寝付けませんか?」

「いいえ……何か、小さい動物の鳴き声がするのです」

「モグラか何かですかねえ?」


 目を覚ましたアマンダも一緒に、長い薪を松明代わりにしてテントの周りを丹念に見渡すと、耳の大きなネズミのような生き物が横たわり弱々しく鳴いていた。


「何でしょう……愛玩用の動物ですかね?」

「脚を怪我しています」


 ジェイの手のひらに乗せられた子が、薄く瞳を開いた。

 ぐったりとして、大きく呼吸を繰り返している。


「折れてはいないようですが? 身体の大きな奴にやられたんですかね?」


 セレスティーヌはテントに走り自分のカバンを開くと、傷薬と包帯を手に戻って来た。

 なるべく痛みを感じさせないように手早く傷薬を塗り、優しく包帯を巻く。


 ジェイからその子を受け取ると、枕元に小さな寝床を作ってやり寝かせた。


「早く良くなるといいね」


 安心したのか丸まって目をつぶる様子に微笑んで、指先で背中を撫でた。



 翌朝目を覚ますと、包帯が気になるのか、しきりに鼻で怪我をした前脚を確認している。

 手を差し出すと匂いを嗅ぎ、ちょこちょこと小さな脚を動かして飛び乗った。そこそこの大きさがあるので、両方の手のひらで受け止めてしっかり支える。


「おはようございます」


 テントから顔を出せば、ふたりはもう起きていたらしく挨拶を返された。


「昨日に比べるとだいぶ元気そうね」


 アマンダが手のひらに乗る子を見ると、表情を緩める。

 そして、大きな手のひらにクルミを乗せて前へ差し出す。


「食べるかしら?」


 期待に満ちた三人の顔を交互に見遣ると、同じように手の匂いを嗅ぎ、前脚を使ってクルミを握っては勢いよく齧り出した。

 それを見てホッとする。


「チンチラね」


 アマンダがネズミのような子をみてセレスティーヌに言う。


「モルモットとかに似た系統の動物よ」


 チンチラと判明した子は、身体は白くふわふわした毛並みであった。顔から頭、耳の辺りが薄灰色で、瞳はまん丸で黒い。


(色味がアマンダ様みたいね)

 セレスティーヌはそう思い、くすりと笑った。


「この辺りに居るとは思えないから、飼われていたのね。逃げられたのか捨てられたのか……」


 そう言うと、顔を曇らせた。

 どのくらい移動をするものなのか解らないが、多分昨日の集落の誰かに飼われていたのだろうか。


「そういえば、昨日の集落はどうされるんですか? 中央から調査・対応しますか?」

「勿論対応は必要だと思うわ。領主である公爵とも協力する必要があるだろうし。加えて過疎の過程にあるところや、他の領地も確認の把握と対応が必要ね」


 ジェイとアマンダが今後の対応について話し合う。

 またも、中央と連携を取らなくてはならない案件が浮上したのだ。


「ただ、一時的な対応だけじゃ駄目だと思うのよ。抜本的な改革をしないと」


 セレスティーヌも同じ思いだ。


 支援金や物資を渡したところで、それは一時的なものにしかならない。恒常的に行なうには莫大な財源が必要になるだろう。未だ国の各地にどれ程同じような場所があるか解らないのだから、お互いが無理のない、それでいて必要な支援や対応をする必要がある。


「自分たちで生活がままなるように、その仕組なり土台を作るための支援をすべきよね……後は若者が居なくなってしまった根本的な原因を潰さないと」

「推測は立ちますが、それでも正確な情報が必要ですね……何とか、集落の方々に話をして貰えないものでしょうか」


 セレスティーヌは言いながら、公爵に話を通して聞き取りをしてもらうべきか、ジェイが文官にでも扮して話を聞き出すか。はたまたアンソニーを再び呼ぶべきなのか思案した。


「……ほら、お嬢様もああ言ってますし? ここは腹を括りましょう?」


 ニヤニヤするジェイと、苦虫を噛み潰したような顔のアマンダが睨み合いをしている。


「嫌よ! 見た目や性別で差別するなんてナンセンスだわ!」

「仰ってることは解かりますが、相手がガチガチの石頭なんだから仕方ないでしょうが?」

「意識改革すべきだわ! どんな人にも人権があるのに!」

「それはもう少し先に持ち越しですね? 次王の治世に期待しましょう?」


 ジェイは持ち物の中から落ち着いた色合いの執務服を取り出し、アマンダの鼻先に突き出した。勿論男性用である。


「時間が無いんですから、今回は現実を呑み込みましょう? アマンダ様が通常の格好をすればすんなりと事が運ぶんですから?」 

「……ぐっ!」


 アマンダは色々と頭の中でせめぎ合い、背に腹は代えられないと判断したのだろう。

 無念という表情で執務服を引っ掴んだ。


「覗かないでね!」


 ふてくされた顔でそう言いながら、先ほどまでセレスティーヌが休んでいたテントに向かっていく。


「何が悲しくて、そんなむくつけき筋肉の塊を覗くって言うんですか?」


 呆れたような表情で、追いやるように手を払った。

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