23 王都にて
こちらのお話で第一章最終話となります。
お読みいただきましてありがとうございました。
明日、登場人物の設定などを掲載予定です。
第二章は5/12開始予定です。
「……そんな感じで、とても元気でいらっしゃいましたよ?」
ジェイが膝をついてニヤニヤと報告をしていた。
五十に手が届こうかという年齢だろうか。銀色の髪を短く刈り込んだ男が、豪奢な椅子に座って話を聞いている。
どことなくアマンダことアマデウスに似た顔立ちのその人は、彼の父親である。
彼はやれやれと言わんばかりにため息をついた。
「まぁ、サウザンリーフの事件が解決して良かったな。全員生け捕りにしたとのこと。大儀であった」
ジェイ、アンソニー、カルロが揃って頭を下げる。
「死者が出る前で幸いでした。領内……正確にはサウザンリーフ地方ですが……内政干渉にならぬよう、盗賊団の身柄はサウザンリーフ公爵に一任してございます。まもなく取り調べた報告が、こちらにもあがって来るかと思われます。
……関連した事件が他の地域にもないか、調べを進めております」
アンソニーが落ち着いた様子で報告をする。
ちなみに、本来彼はこちらの姿がデフォルトである。
「公爵は相変わらずのようだが……」
そう言って銀髪を揺らして苦笑いをした。
ここにもサウザンリーフ公爵の甲冑姿を知る人間がいたらしい。
「まあ、あれも一応役目を果たす気と見えて安心した。
被害にあった人々の支援は、中央からも協力をするように通達してくれ」
「承知いたしました」
アンソニーが静かに応えた。
「カルロも、海の藻屑にならなんで良かったわい……色々と迷惑をかけたな」
「とんでもございません」
カルロも膝をつき礼を取る。
「して、タリス嬢と言ったか。彼女はあれの正体に気づいたのか?」
三人が顔を見合わせた。
「いえ」
「途中から怪しんでたと思いますけどね? それを無しの方向に持ってったのは、アンソニー様のせいだと思いますが?」
おどけるようなジェイの言葉に、アンソニーはしれっと横を向く。
カルロはいつものことなので、黙ってふたりを静観している。
アマンダと名乗っている親友の隣に並んでいた、小さいリスみたいな女の子。
(まだ出会ったばかりなのに、随分仲が良さそうだったなぁ)
手を繋いで、ふたりで走って行く背中を見送ったのは一昨日のことだ。
大きな背中と小さな背中が、揃って嬉しそうに揺れていたのを思い出す。
「まあ良い。以前からあれの言っていた、代官選別に関する法案を至急進めることにしよう」
アマンダの父はにこやかに言うと、窓の外を見る。
「……ローゼブルクか……賑やかそうだなぁ」
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「……そう言えばアマンダ様。『ペッシュ・ジャン・ピエール』って何ですか?」
「えぇ? 『剣豪騎士、ペッシュ・ジャン・ピエール』よ。悪を退治する騎士の話! お芝居で流行ったじゃない……知らないの?」
愕然としたアマンダの語尾が、ちょっと小さくなる。
ミンミンとセミが大合唱する道の真ん中を、アマンダはフリフリの日傘をさして歩いていた。
綺麗な金髪の巻き毛が――ズラであるが――陽の光を反射するかのようだ。
リボンのついたボンネットを被ったセレスティーヌが、こてりと首を傾げた。
先日おかしな格好をして白馬に乗ってやって来た、サウザンリーフ公爵が口走っていた名前である。
「知らないです……」
「やだわぁ~、ジェネレーションギャップかしら……」
夏真っ盛りで汗だくになるのでアマンダの化粧はちょっと控え目だ。
アマンダに任せておくと汗に流れて、まるでおばけのようになってしまうので、侍女の仕事として化粧をする権利を獲得したのである。
涼し気な目元は控え目なアイシャドウを施し。つけまつげは糊が剝がれるので却下に。
もともと髪よりもやや濃い銀色のまつ毛は充分に長く、綺麗に上を向いているのである。
引き締まった唇を彩るのは、大人っぽい、やや渋みのあるオレンジベージュの口紅。
キリリとした大人の女性をイメージしたお化粧は、アマンダによく似合っていると思う。
汗を拭くのはドリームランドで購入した、犬のキャラクターが刺繍されたハンカチである。
何だか恥ずかしがるセレスティーヌを説き伏せて、しっかりと一枚頂戴し、今はおそろいで使っている。
「ジェネレーションギャップって……六歳しか違わないですよ?」
「六歳! ……やだわぁ~!」
「何が嫌なんですかぁ」
夏の真っすぐなあぜ道は、どこまでも続いている。遥か道の向こうには、大きくて真っ白な入道雲が天高くそびえている。
草陰から飛び出したカエルがびっくりして、小さく鳴いてはため池に飛び込んだ。
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