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【完結】オネエ様と一緒!~厳ついオネエと追放令嬢のぶらり途中気まま旅~  作者: 清水ゆりか
第一章 東の盗賊団

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17 朝の面々 前編

 ふたりは動きを同調させるように書類をやり取りしながら、これまた素早い動きで目を通し、移動しながら情報の共有を行っていた。

 ふたりの動きには全く淀みがない。


「お前が予想した川沿いの街にも『スワロー商会』が立ち寄っていた」

「へぇ~、それで?」

「同じ暗号を確認。それぞれの街へは通常数日いることから、まだ下見中か、後日同じように押し入るつもりだったのだと思われる」

「身柄は」

「奴らは近隣で野営をすることが多いそうだが、『野営をしている』それらしい団体は見当たらなかった。付近を探索中だ」


 今いる門前町と川沿いの町は、早馬なら馬の体調や能力、気候などにもよるだろうが一時間程、せいぜい二時間も掛からない距離だろうか。

 徒歩なら五時間。馬車なら三~四時間程であろう。


「実際に遭遇した人たちは顔を見ているの?」

「いや。顔を隠すようにフェイスベールのようなものをつけていたらしい」

「……見てないのね」

「気が動転していたのだろう。服装や特徴もいまいち曖昧だ」


 とっさの時に相手の容貌を記憶するというのは、意外に難しいことだ。

 充分に訓練されている人間ならば別であるが、一般の人間が強盗に押し入られているという時にまじまじと相手を観察できることはほぼないと言って良い。


 訓練をされている騎士とてそうだ。天下泰平といわれるこの時代、普段大きな荒事に慣れていないのならば、そう変わりはないだろう。

武器を持った敵が複数おり、助けなければならない人たちがいて、自分と人質に刃物を向けられたなら。平静を保てる人間の方が少ないのだ。


「まだここに紛れ込んでいることは?」


 相手に情報漏洩したのでは、裏をかくことも捕まえることも遠のく。


「それは流石にない。確認済みだ」


 アマンダはひざを折り、怪我をした騎士や、一晩中探索をしていた自警団員たちを労ったり、被害に遭った領民たちの様子を確認したり声をかけたりと忙しない。

 途中で炊き出しの様子や、住む場所が壊れ困っている人たちの対応の中身を確認しては、不足がないか追加の指示をしている。


 その間アンソニーの周りには入れ代わり立ち代わり人がやって来て、次々と報告を挙げたり指示を仰いだりしている。アンソニーも的確にそれらに対応していた。

 本来なら先に話している者や上位の者の話を遮ることはご法度だが、状況が状況だからなのだろう、止まることなく『行なうこと』が降りかかって来る。


 アマンダはアマンダで、人々を労いながらも、それとなく昨夜の状況を質問して聞き出し、確認して自分なりに裏付けを取り、アンソニーへなされる報告と彼自身の指示を精査しながら考えを纏めている様子が見られた。


 そして時折見知った顔なのか、着いたばかりの時に確認した騎士とは違った騎士が、アマンダを見てギョッとしては、頭を下げて戻って行く。


 兎にも角にも。

 アンソニーだけでなく、アマンダもまた仕事に非常にソツがない人間であることが察せられた。



 セレスティーヌといえば、歩幅の違いのために小走りでふたりについて行く。

 炊き出しのお手伝いに加わった方が良いかアマンダに確認したかったのだが、ふたりのすり合わせという名の舌戦に口を挟むことが憚られ、銀色の瞳を瞬かせながら大男たちの後ろを、ひたすらに走っている。


 その様子が親鳥の後をついて行くひな鳥のようでもあり、両親の後をついて回る子どものようでもありで、騎士達や街の人たちが微笑ましく見守っていた。


 やっと立ち止まると、すかさずアンソニーが口を開いた。


「途中騎士達が遭遇して、おかしいと思った人間には内密に人をつけてある」


 親戚の不幸に向かっていると言って馬を走らせていたグループ。

 家族が急病で医者を呼びに行くと馬を走らせていたグループ。

 冒険者で、夜行性の動物を追っていたというグループに、川釣りをするためだと言って明け方間際に船に乗ろうとしていたグループ。


「あり得なくもない理由もあれば、怪しい理由もあるわねぇ」


 説明を聞いて苦笑い気味だ。


「どうする。止めて尋問をかけるか?」


 厳しい表情のアンソニーに、アマンダは少し考えて答えた。


「少し泳がせましょう。スワロー商会は読み通りヴェッセルの港に商船を置いているのよね」

「ああ。確認済みだ」


 もしもスワロー商会が本当に窃盗団なのだとしたら、しばらくサウザンリーフ領を離れて他の場所に行くのだろうか。

 商隊とひと口に言っても、その形態は様々だ。

 何処かの街に自分の店を持っていて買い付けに出ていた場合もあれば、他の商店へ卸したり、港などで他国の商人と売買したり。


 スワロー商会が、たまたま偶然にも窃盗団の被害地と訪問場所が被っただけの堅気の商隊だったとして。商隊は再び他の領や近隣諸国を旅し、売買をしながら旅を続けることが大半でもあるので、サウザンリーフ領を離れることが必ずしも怪しいに直結する訳でもないのではあるが。


「取り敢えず、スワロー商会の拠点が何処かにあるのかどうか、詳しい情報を各領の商業ギルドに確認して頂戴」

「既に確認中だ。じきに結果があがって来る筈だ」

「ヴェッセルには、もう先行隊は着く頃ね?」


 川沿いの町と港町ヴェッセルは、門前町と川沿いの町の倍程の距離がある。

 長時間移動することになればペースは落とさざるを得ないだろうし、休憩も必要であろう。

 必然的に普通の馬よりも軍用馬の方が脚力があるであろうことから、そう計算したのだろうか。 


「少し前にもう間もなくであると伝書鳩を受け取った。そろそろ着いている頃だろう」


 そう言いながらアンソニーは緑の瞳を伏せると、手元の書類に何かを書き込んだ。

 


(凄い……色々な意味で)


 緊張感とスピード感のあるやり取りに、セレスティーヌは息を詰める。


 瞬時に判断をして適切な対応を選択するのは、簡単なようでいて難しいものだ。実際は検討に検討を重ねるなんてことが多い。問題が大きければ大きいほど、決断には時間がかかる。実際にユイットでは様々なことが慎重に、何度も何度も話し合いの上に検討されて決定されていた。それを悪いとは言わないが、違いをまざまざと垣間見た気がしていた。

 

 今、そう出来る時間がないから仕方ないのだが、ただの行き当たりばったりでは破綻する。きちんとした結果を出す為には経験と蓄積されたデータ、そして判断力と決断力が必要なのだ。


 年若い女性ながら、比較的理解のある父によって仕事の手伝いをさせて貰っていた身だからこそ思う。目の前のふたりもまた年若いながら、自分の中に落とし込んだ様々な情報と目の前のあれこれを取捨選択する能力、毅然とした判断力と決断力、何よりもそれを行使する力を持っているのだ。


(……『若いから』とか『出来ない』とか、きっと言い訳を出来ない立場の方々なのね)


 どうやって彼らは自分の血肉にしたのだろうか。

 場合によって大きな決断は、恐怖感が付きまとうことだろう。

 普通はそうできるよう、それなりの時間をかけて育てられるものなのだ。周りが全てお膳立てしてくれることだって珍しいことではない。

 働く貴族令息に対して、そういう対応がなされることもままあることだ。


 勿論貴族令嬢であるセレスティーヌは、本来こういった『仕事』はしない立場だ。よって彼らの足元にも及ばない程度の仕事しかしてはいなかったが、自分の周りの男性たちと見て比べて、その歴然とした差に舌を巻く。

 アンソニーの噂は伊達でも誇張されたものでもなさそうであった。


 セレスティーヌは日々、懸命に生きる頑張る人たちが大好きだ。

 平民でも貴族でも。労働の種類に関係なく。



「あの……」


 セレスティーヌは、警護してくれているのだろう、ずっとニヤニヤしながらセレスティーヌの後ろをついて回っている小柄な男に向き直った。


「ジェイと申します?」

「ジェイさん。騎士団で武器はどのくらい持参されてますか」

「大型の武器は持参していないかと?」


 意外にも狡猾らしい盗賊団を相手に、重装備での備えはないとのことだ。

 顔に出ていたのだろう、面白そうに笑いながら説明してくれる。


「言いたいことは解りますが、領主から要請があった訳じゃないですからねぇ? 余程の事がない限り、完全武装では来れないもんですよ?」


 捜査に危険が伴おうと、色々大人の事情があるのだろう。

 彼らが出発した時点では見立てはあくまでも予想の範囲内であり、討伐や捕獲というよりは、調査とか協力といった内容であったのだ。


 更に、彼らは王太子騎士団の騎士なのだ。

 

 街によっては出入りの際に荷物検査をするところもあるため、商隊の人間が大がかりな武器を携帯しているとも思えない。

 そして戦うということへの実力からして、普通は騎士団の方が強いと思われているだろう。

 しかし念には念を入れたい。


「ちょっとお耳を宜しいですか?」

「はい?」


 何かを思いついたらしいセレスティーヌが、ジェイに耳打ちする。


「…………。料理でもするのかって品物ですが、違いそうですねぇ? それなら行軍の材料として持って来ていると思いますよ?」

「結構大量にいるのですが、購入して来ても良いでしょうか……」

「じゃあ、ちょっと自分が集めて参りましょう?」


 アマンダの従者(?)であろうジェイの申し出に躊躇したが、自分がウロウロするよりも早いだろうと思い有難く甘えることにした。


「お願いいたします」


(私に何が出来るのかしら)


 そう思いながら頭を下げるセレスティーヌに、ジェイはにこやかに頷いては街中に消えて行った。

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