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   寺院のある街 後編

 アマンダの姿を見つけると、自警団の一人が噛みつくように近づいて来た。


「お前は昨日の! なぜ襲撃が解ったんだ!?」

「……昨日も言った通り、今まで見聞きしたことから推測しただけよ」


 自警団は町々にある。

 文字通り、騎士団がカバーしきれない地域の安全確認や平民の軽い乱闘騒ぎなど、地域の安全と秩序維持のために、商工会や青年会などが中心となって形成している団体だ。


 襲撃にあったこの街の自警団は、伝言を持って来た王立騎士団と共に手分けして街の警戒にあたっていた。そして街の異変を察知するとすぐに対応を余儀なくされた。


 アマンダが何でも屋に依頼した伝言はすぐに王立騎士団の事務所に届けられたのだろう。取り敢えず様子を見た上で街の人に警戒を呼び掛けようと、都合がつくギリギリの人数でやって来たところ、襲撃に遭遇したのだ。


 一方で、アマンダが信書を渡した別の町の自警団員達は、まさか本当に予測された街が襲撃されるとは露とも思わず……胡散臭いと思っていたからか、すぐさまの対応にはならなかったのだろう。そんな雰囲気を感じたので、早急に対応をすべく、王立騎士団にも伝言をすることにしたのだが。まあ予想の範囲内だ。


 夜が明け取り急ぎ早馬でやって来てみれば、襲撃後の街に着いて啞然としているといったところだろうか。



「嘘をつくな! お前たちも奴らの仲間なんだろう、わざわざ様子見か! 何が狙いだ!」


 怒気を孕んだ声と瞳がアマンダを射抜く。


 アマンダはアマンダで、呆れたような困ったかのような表情で喚く男を見下ろしていた。

 そんな様子を見ていたセレスティーヌが、見るに見かねて一歩前に出た。


「お止めください! アマンダ様が進言したからこそ、すぐに対応出来たのではないのですか。第一、盗賊の仲間なのだとしたら襲撃の可能性を教える筈がないでしょう。礼を言われることがあったとして、そのように怒鳴られる謂われはございません!」

「うるせぇ! 小娘は引っ込んでろ!」

「!!」


 怒りに任せ掴みかかろうとした男の勢いに、セレスティーヌは思わず目をつぶって身体を固くした。


「…………?」


 暫く来るだろう衝撃に構えていたが、掴まれることも押される衝撃もない。

 前の方から聞こえるくぐもった小さな唸り声が耳に届き、恐る恐る銀色の瞳を開いた。


 アマンダが無表情で自警団員の男の腕を握ったまま、高く釣り上げており。

 そして先日食事処でみかけた小柄な男性が、男を羽交い絞めにしたまま、片方の手で声を出せないようにきつく口を塞いでいた。


「それ以上、口を開かねぇ方が身のためですよ?」


 そう言った後自警団員の耳もとへ口を寄せては、何かを小さく呟いた。

 何を言ったのか、自警団員の瞳が驚愕に見開かれると、アマンダは腕の拘束を解く。


 いつもは優しく穏やかな黒い瞳が、刺すように団員を見据えた。

 その個性的な姿とは打って変わって、威厳に満ちた態度と物言いに自警団員の頭に警鐘が鳴り響く。腕っぷしには自信があり、それ相応の荒事にも対応して来た筈だが。感じたことのない恐怖で臓腑が芯から冷えるのを、彼は初めて味わった。


「女性に手を挙げようとするなんて、自警団の風上どころか、風下にも置いておけないわね!」

「おっと?」


 腰が抜けたようによろめいた自警団員を抱え直すと、羽交い絞めにしたまま距離を置くように引きずって行った。自警団員は無抵抗であった。


「大丈夫?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます」


 心配そうな表情のアマンダに、セレスティーヌが頷いた。


「も~。アタシのことなんて庇わなくていいのに」

「……申し訳ございません」


 思わず謂れのない責めを受けるアマンダを庇うべく、後先なく身体が動いてしまったのだ。


 もしも自警団員が殴りかかって来たところで、アマンダ本人はなんてことなく対応出来るのに。

 だがセレスティーヌは無理である。本気で男に殴られたら大怪我をしてしまうに違いない。


 また面倒をかけてしまったことに申し訳なく思いながら、セレスティーヌが頭を下げた。



 アマンダは、先ほど騎士が去って行った方向をちらりと見遣る。

 確か、王太子付き騎士団が来ていると言っていなかったか。


(まあ……王都に報告を挙げれば、八割方彼らがやって来るとは思ったけど……)


 エストラヴィーユ王国には幾つかの騎士団があるが、王族には専属の騎士団が与えられている。近衛騎士としての役割の他、王族が直接陣頭指揮を執る直属の騎士団である。


 その役割や地位によっても様々な規模であるが、現職の王と、次代の王である王太子の持つ騎士団の規模が大きいのは言うまでもない。 


 ……アマンダにとって知人の多い王太子付き騎士団の派遣は、もしかしたら敢えて外してくれるのではないかと淡い期待を抱いていたが。無情にもそんな気遣いはしては貰えなかったようだ。


「面倒なことになったわね。さっさと解ったことを申し送って、次に行きましょう」


 みつからない内にという言葉が隠されているような口ぶりだが、セレスティーヌが頷くと、同時に低い声が響いて来た。


「……さっさと申し送って次に行くだと? そんなことが許されるとでも?」


 不機嫌そうな低音が、機嫌の悪さをこれでもかと表している。


 ぐぎぎぎぎぎぎ。


 錆び付いたおもちゃのようにアマンダが首を動かすと、怜悧な美貌を引き立てるような冷笑を浮かべた長身瘦躯の男性が立っていた。


 こめかみに怒りの青筋をたてて。

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