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   状況を整理しよう 後編 

 そのままの足でふたりはサウザンリーフ領の自警団の詰所へ行き、アマンダがサウザンリーフ公爵への信書を託した。


 本来なら使用人や騎士などを伝令に使うものだが、今のアマンダにいる筈もなく、領地の自警団にお願いすることにしたのだった。


 大変に胡散臭そうな顔でジロジロと姿を眺められ、信書を何度もひっくり返していた。


 次の襲撃が推測される街と、グランヴァリ川の近くにあるもう一つの街にも注意を促すように伝言してほしいと伝えたが。見ず知らずの旅人である珍妙なふたり組の話は、話半分で聞かれているのをまざまざと感じる。


 散々自分たちが調べているにもかかわらず、盗賊たちの行方が掴めていないのだ。

 女の格好をした男と、いまだ少女といっても良さそうな年若い女に何が解るのだと言いたいのであろう。


 気持ちとしては解らなくもないが。もう少し本気で取り合ってもらえないものかと、セレスティーヌは歯噛みする。

 


「…………。少し遠いけどエストラヴィーユの騎士団の事務所がある筈よ。そっちにも伝言をしてみましょ」


 アマンダは内心ため息をつく。


 自分たちの勇み足で、空振りに終わるのは問題ないのだ。万が一にも予測が当たってしまい、被害が出てしまったら……情報の取り扱いや対応うんぬんで、先ほどの担当者が叱られやしないかとやきもきしていた。


 何ならわざわざ自警団を通さなくても良かったのだが、一応サウザンリーフ公爵の顔を立てるためだ。知らぬ間に王国の騎士団が出張って全て解決してしまい、後から聞かされる領主は不憫であろう。


 あえて公爵の暮らす領都は通らずに迂回して旅をしてきたのだが。

 なぜなら公爵に会ってしまうと、何かと面倒だからだ。


 幸か不幸か、今いる町からそう遠くはない場所に領都はある。騎士団の事務所というか分所というかも、きっとそこにあるだろう。



 アマンダは薄暗くなり始めた空を見上げてから、セレスティーヌをカフェの窓際に座らせる。中では血気盛んな男たちが何かの議論をしているらしく、熱の入った会話をしているのが目に入った。


「ちょっと何でも屋さんにお願いして来るわ。あんまりガラが良くないからここで待っていてくれる?」

「大丈夫ですか?」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ」


 気負いない様子で頷くアマンダ。


(そうだった。アマンダ様は、もの凄く強いのだったわ)


 そうとは知りながらも、知らない土地の荒くれ者を相手にすることに心配しながら、ドレスに無理やり収めている広い背中を見送る。



 何でも屋は文字通り、喧嘩の仲裁から引越しに人探しにと何でも請け負ってくれる団体だ。面倒事を扱うことも多いので、気の荒い者や腕自慢が生業にしていることが多い。


 隣街だというサウザンリーフの領都にある王立騎士団の事務所まで、馬でひとっ走り行って貰うだけの比較的簡単な仕事の筈だが……


(女性の格好をしたアマンダ様を軽んじて、法外な金額を吹っ掛けられたりしないかしら)


 甘い香りのお茶を飲みながらそんなことを思っていると。

 建物の中から凄まじい勢いで、何人かのガラの悪そうな男たちが飛び出て来た。そしてそれぞれ別方向に走って行く。


 セレスティーヌは丸い瞳を瞬かせた。


(……領都へ行くだけじゃないのかしら?)


 そして悠々と、落ち着いた様子で建物から出て来るアマンダ。その後ろでは見送りなのか、何でも屋の責任者らしい初老の男性たちが低姿勢で何度も頭を下げていた。


 いったい何があったのだろうかと首を捻る。


「領都以外にも伝言を出したのですか?」

「そうなの。もしもこちらの対応が遅れて襲われでもしたら夢見が悪いじゃない? 予測した街々に念の為警戒をしてもらうのと、最終目的地だろうヴェッセルの港町、王都からこっちに向かっているだろう騎士団にもね」

「そうなのですね、お疲れさまでした。何か召し上がりますか?」

「そうね。少しひと休みしましょうか」


 大人しく言われるままに座って待っていたセレスティーヌの前にアマンダが立つと、彼女に声をかけるかどうか様子を窺っていた男たちがギョッとして、一斉に目を逸らした。


 警戒の意味も込めて、いまだ横目で見ている男たちに睨みを利かせる。


 見る目がないのかコンプレックスの裏返しなのか。

 元婚約者の心無い言葉や、元婚約者に群がる女たちの悪意ある言葉をすっかり真に受けている節のあるセレスティーヌ。


 本人は地味で目立たないと思っているようだが、実は清楚な愛らしい見目で、整った顔立ちである。


 今も店の男たちがセレスティーヌを狙っていたのだが、本人は全く気付いていない。

 困ったことにならないよう、人目のある店頭に近い窓際に座らせて正解であった。


 セレスティーヌ目当てに店に入る人間がいるかもしれないが、店の奥で質の悪い男に絡まれるよりはいいだろう。

 万が一連れて行かれそうになった時に、店頭ならばすぐさま対応出来るだろうというアマンダの配慮である。


「……全く。自覚が行方不明なのも困ったもんねぇ」


 思わずボヤくアマンダ。



(じかく? 字画? ……もしや、痔核?)


 行方不明ってどういうことなのだろうかと思いながら、アマンダの尻の辺りを見遣る。


「大丈夫ですか、アマンダ様……痛みはないですか?」

「え? どこも怪我なんてしてないわよ?」

「そ、それならいいんですが……」


 何か言いたそうな困ったような顔をして、セレスティーヌは悲壮な表情をした。

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