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   状況を整理しよう 中編

 宿屋の主人に確認したところ、町に盗賊集団が出る数日前に商隊が数日滞在したという。聞けば、二十人程の商隊らしい。人数が人数なこともあり、町の外れの平地に野営したそうだ。


 頻繁にではないが時折みかける商隊だとのことである。


 たまたまということも考えられるが、他の被害地も確認してみて重なりが多いようであれば想像は疑惑となり、疑惑は確信となって深まって行くだろう。


 ただ決して決めつけはせず、視野は大きく持つべきであることをふたりは自分に言い聞かせた。



「ここです。この、掠れた模様は『×』だと思いませんか? そしてこちらは数字」


 セレスティーヌの話を聞き、ふたりは揃って外へ出た。


 宿屋の扉の端の方に、薄くなった模様と数字らしきものが見える。

 薄く掠れたそれらは、注意深く確認しなければ見落としてしまうだろう。


(……小柄だからみつけられたのか、目聡いのか)


 アマンダは目の前の小さな頭をイイコイイコしたい気持ちを抑えつつ、片膝をつき首をかがめて、そっと扉の模様を撫でた。

 柔らかいもので書いているのだろう。軽く触れただけでうっすらと黒く指が汚れ、模様が薄くなる。


「良くみつけたわねぇ」

「実は同じようなものが先ほどの食事処にもあったんです。たまたま先に見ていたので、目にはいったのだと思います」


 セレスティーヌは食事処で見た模様を説明する。


「初めは子どもの落書きだと思ったのですが。盗賊に襲われた町で、複数の場所にあったので、もしかして何かの目印か暗号なのではないかと……飛躍しすぎかとも思ったのですが、もしもお調べになっているなら、お知らせした方が良いかと」

「お手柄かもしれないわよ」

「他の民家や商店も確認しますか?」


 心配そうに眉を下げるセレスティーヌに、アマンダは首を振った。


「日にちも経っているし、既に消えてしまっているものも多いと思うわ。それよりも、もう少し色々詰めて先回りしましょう」

「わかりました」



 再びアマンダの部屋へ戻ると、地図をのぞき込む。


「今、被害に遭った場所の詳細を調べてもらっているから、じきに細かな共通点が見つけられると思う」

「今はこの辺りですね」


 セレスティーヌの白くほっそりとした指が、現在地周辺を指さす。

 領の中央部、北寄りといったところだ。


「このまま横へ突っ切って海へ出るのでしょうか?」

「多分だけど、もう少し北東に進むと大きな教会のある街があるわ。そいつらはそこへ向かっている可能性の方が大きいのじゃないかしら」


 ジェイからの報告書を読んで、すぐに今後の襲撃の予想を立てた。

 この情報が齎された人物達も、多分同じことを考えていることだろう。


 サウザンリーフ領の北部中央に、観光名所にもなっている大きな教会がある。


 領をぐるりと一周するかのように動いている盗賊達だが、経路には多少のデコボコがあった。

 襲撃に適した街の位置の凹凸だ。


 セレスティーヌは書き加えられた大きな河川を指さす。

 幾つもの領地の境界となる河川。グランヴァリ川だ。


「水路の方が移動に楽だと仰ってましたから、更に少し北上すると、サウザンリーフとローゼブルクの領境を分けている川に出ますね」

「そうね。対岸のローゼブルク領に逃げるにしても、そのまま荷物を持って海へ向かうにしても、好都合だわね」


 ローゼブルクだけでなく、上流へと遡って行くならばマロニエアーブルとフォルトゥナを隔ててもおり、更にはクラウドホース領を縦に走る。

 その水源はクラウドホース領の最北端部と地続きに接している他国との国境上にある、かなり大きな川だった。


 一向に進んでいない捜査の手を免れるべく外へ出るのか

 それとも調子に乗って二周目の犯行を行うべく内陸部へ遠征するつもりなのか。


(普通は、ほとぼりが冷めるのを待つのではないのかしら)


 ふたりは同じ推測をした。

 誰も正体に気づいていないなら尚のこと。長く蜜を吸い、事を成功に運ぶならば、二周目は少し時間を置いてからと考えるのではないか。


「……明日、早くに出発しましょう」


 もうじき日が暮れる。

 宿を飛び出して一刻も早く答え合わせをしたいが、推測の段階で大きく騒ぐのも憚られる。いたずらに飛び出して誰かの不安を煽ることも避けたい。

 セレスティーヌの安全を蔑ろにするのは以ての外だ。


(早く夜が明けろ)


「取り敢えず。騎士団にでも話をしてみましょうか」


 緊張感を持った表情で、ふたりは顔を見合わせた。


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