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12 状況を整理しよう 前編

「セレが優しいイイ子なのは解かったわよ。安全にコトを運ぶために、状況を確認しましょ」

「はい!」


 困ったような顔のアマンダは、ため息を飲み込んでそう言った。

 セレスティーヌに輝くような笑顔を向けられ、アマンダは再び眉を下げる。

 


 カバンの中から紙とペンを出すと、アマンダは慣れた手つきで大まかなサウザンリーフ領の地図を描いた。


(イヌの形……?)


 覗き込んだ領地の形が、ドリームランドのキャラクターの赤いイヌに似た形をしていることに気づく。


 そう、あのキャラクターはサウザンリーフ領を模したものであるのだが、今はおいておく。


「実際は他の貴族の領地があちこちに穴あきであるから、『サウザンリーフ地方』って言う方が正しいんだけど――セレの推察通り、ちょっと調べてもらったんだけど。この、北東部分の街から右回りに被害が起こっているのね」


 順番に被害のあった町と日付を書き込んで行くと、多少のデコボコがあるものの、ぐるりと領線をなぞる一周近く、数か月をかけて移動していることが解かる。


「そうすると、何か規則性を持って進んでいるということですね……?」

「そうね。あと、下見なんかは少人数で済ませてるのかもしれないけど、ある程度大人数で移動していても怪しまれないようなカラクリがある筈よ」


 怪しまれない程度の人数に細かく分散して移動している可能性もあるが。

 それでは、いざという時に色々と効率が悪いだろうとも思う。


「この、全体的に海岸線に近い感じがするのは、何か意味があると思いますか?」

「そうねぇ」


 そう言いながらアマンダは、いくつかの曲がりくねった線を書き入れた。


「運河や大きい河川、海の港がある場所は大きな街として栄える場所が多いわ。勿論内陸部に市街地がない訳じゃないけど。水があるところは物も人も動かしやすいからね」


 被害があった場所に書かれた地名を見れば、確かに市街地と言えるような大きな街や町ばかりが記されていた。


「たまたまある程度の規模の市街地を選んだ結果かもしれないし、水路……海を移動に使っているのかもしれない」


 陸を移動するより水路を使った移動の方が比較的楽に移動出来るのだ。


 海は安全性に問題があるが、領の海岸線に沿った近海を移動するのならば、そうそう危険も少ないであろう。

 盗んだ金品を隠すにしても、持ち歩くよりも船に隠した方がみつかり難く、所持しやすい筈だ。


 ……ここと思う場所で再び上陸し、犯行を重ねているのかもしれない。


「他に見落としている理由があるのかもしれないから、決めつけるのは早計だけどねぇ」


 セレスティーヌは地図に目を落としたまま、アマンダの言葉を心の中で反芻した。


「……既に犯人の目星のようなものはついているのですか?」

「うーん、決め手って程のものはまだね。話を聞いてまだ数日でしょう? 調べさせるにしても、今は精査するための情報を集めている段階ね」


 顎に指を当てながら考えるような様子のアマンダを見遣る。

 やみくもに、ただ追う訳にも行かないことから、情報を慎重に精査する必要もあるのだろうとセレスティーヌは思った。


 そしてやはり、サウザンリーフ領で夜盗集団が発生する程荒れている場所や情勢でもないということから、外に出て行った人間か、外から来た人か……多くが別の場所の人間なのではないかと推測しているとのことだった。


「とはいえ、サウザンリーフ領の土地勘がある人間がいることは間違いないと思うわ」


(他領との混成。大人数。領内を移動……)


 領民たちの何気ない会話。

 食事処の女将さんの話。

 アマンダの説明。


 セレスティーヌは点と点を繋ぐように、合わせることの出来る条件を頭の中に思い浮かべていく。

 ある一点を思い浮かべた時に、霧が晴れるように思考がクリアになり、言葉が零れた。


「……商隊……?」


 セレスティーヌの呟きを聞いたアマンダは瞬時に考えを巡らせたのか、ピクリと眉を上げた。


「可能性はあるわね。人が多くても不思議に思われないし、ある程度纏まった金品を持っていても不思議に思われないわ」


 商隊は、商人や商人と商品を守る輸送を専門とする護衛などと隊伍を組んで移動している集団だ。


 途中関係のない旅人や移動薬師などが目的地周辺まで安全を確保するために、隊列に加えてもらい旅を続けることもある。

 腕っぷしの強い連中がいても不思議に思われない上、大人数で列を組んでいても然り別行動の人間が加わっても外から不思議に思われない。その上途中で金品を捌くことも可能であろう。


 陸路を行くイメージがあるが、水路を使うこともある。

 勿論両方使うことも。


「いい線行ってるかもしれないわね」


 アマンダがニヤリと笑うと、セレスティーヌはホッとしたように表情を緩めた。


「町に商隊が入ったか確認しましょう」


 同じ商隊ならば、より可能性が強まる。

 足が付かないように途中途中で名前を変える可能性もなくはないが、信用が大きい商売でもあるために現実的ではない。

 ましてや商隊を装っているのか、本物の商隊なのかも解らないが。

 アマンダが次に狙われる場所の予測を裏付けるために、少しでも情報が欲しい。


「……それともう一つ。関係ないのかもしれないのですが、少し気になることがあるのです」

「気になること?」


 セレスティーヌはアマンダの顔を見上げて頷く。

 そういえば、部屋に入って来た時にも言っていたと思い至る。


「なあに?」


 アマンダは黒い瞳で、セレスティーヌの銀色の瞳を見つめた。

 

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