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【完結】オネエ様と一緒!~厳ついオネエと追放令嬢のぶらり途中気まま旅~  作者: 清水ゆりか
第四章 南の諧謔曲

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35 決意……?



 アマデウスは考えていた。


 どうしたらセレスティーヌに安心して自分の未来を考えてもらえるのかについてである。


 身分差は周囲的にはほとんど問題ないと言えるのだが、セレスティーヌとタリス家の面々にだけ壁のようにそびえ立っている状態だ。

 逆の立場であればそう考えるのも無理からぬこと。とはいえ、最近のタリス家の人々は覚悟を決めたようにも見える。


 本来の貴族の婚約のように、タリス伯爵に婚約の申し込みをして話を整えるで問題はないのではあるが……セレスティーヌの気持ちを無視し、無理やりに結婚を突き付けるような真似はしたくはない。こちらから申し込めばほぼほぼ整ってしまうだろうから、強制はしたくないしされたと思ってほしくもない。その辺りのわだかまりをある程度消化して、幸せになるのだと思って頷いてほしいのだ。


 わだかまりがあろうがなかろうが、幸せにする気は満々である。

 アマデウスがセレスティーヌに愛情を持っていることは、疑いようも偽りようもない事実だ。


 数か月一緒に過ごし、セレスティーヌの人となりに触れて来た。

 一緒に過ごす未来も人生も、彼女以外の人間は考えられない。


 ……一応わかり易いように気持ちも希望も伝えたはずではあるが……これ以上はっきりいうのならば、もう直接「結婚してください」という以外に選択がないといえる(近しいことは既に何度か言った)。


 簡単に結婚と言えないのは、立場がちょっとばかり面倒だからだ。しかし、多分、セレスティーヌに向いているとも思うわけで。


 王家というと華やかな社交や国際交流にばかり目が行きがちであるが、日々の地道で地味な部分には目が行きにくい。しかしより重要かつ比重が多いのは後者のような事々である。

 必要以上の負担をかけるつもりは勿論ないが、多分やりがいを持って取り組んでくれる筈で。そしてそれは国民の為になることは間違いないと思っている。

 そして傷ついた自尊心を取り戻し、自分に自信を持ってもほしい。



 今日も高位貴族教育という名の胡散臭い教育を終え、仕事へとやって来たセレスティーヌは嬉々としながら執務の手伝いに精を出している。

 もう手伝いではないレベルで、セレスティーヌの担当を作ってもいいかもしれない状況だ。


(自惚れかもしれないが、多分……嫌われてはいない)


 表情や仕草、ちょっとしたあれこれから否定の感情はみられないし感じられない。


(だが全然、まったく進む気配はないな……直接言うのはとかいうレベルじゃなくて、頭を下げてお願いしないと駄目なのかもしれないなぁ……)


 強制したくはないが、そのものズバリを言って、考慮してもらうしか道はないのかもしれない。――セレスティーヌは慎ましいのもあるが、恋愛方面においては若干天然気味でもあるからだ。


 アマデウスは手元の書類を見ながら、そんなこんなを考えていた。

 もちろん恋愛事ばかりに現を抜かしているわけではないが、目下の最重要課題であることは確かであった。




 一方のセレスティーヌも、若干表情を硬くしていた。

 家族と話をし、覚悟を決めたから。


 過去の傷ついた経験から、自分が無価値な人間であるように思っていた。――そう思った方がいざ心無い言葉や行動に遭遇したとき、負う傷が小さく浅く済むからである。


 多くは元婚約者であるダニエルからの心無い言動からで、逆らえばより酷くなるために、いつしか自分の意見を言うよりも諦めることが多くなった。そして彼に関与する女性たちから受ける批判や嘲り……数少ない社交や交流で味わわされた経験則ゆえの自己防衛である。


 しかし、そんな過去の傷ついた自分ばかりを見るのはアマデウスにも失礼であろう。アマデウスは自信のないセレスティーヌに様々な役目を与え、一緒に解決する機会と達成する喜びを共に進んでくれた。


 女性だから、低位貴族だからといって蔑んだり軽んじたりすることは一度足りともなく、対等な人間として常に接してくれた。


 傷ついた過去ごとまるごとを肯定してくれるのが彼だ。

 そして今、そんなセレスティーヌを生涯の伴侶にと手を差し伸べているのだ。


(貴族の婚姻は家と家の結びつき。私の気持ちなどお構いなく、ただ婚約を申し込んでしまえば逃れようがないのに……)


 セレスティーヌの葛藤を解ったうえ、更には国政に巻き込んでしまう(そうアマデウスは考えているはずだ)からと思ううえで、最終的な判断はセレスティーヌに委ねてくれているのである。


 アマデウスだけではない。

 本来は低位貴族、それも貧しい家柄の娘であるセレスティーヌを厭うこともせずに、温かく迎え入れてくれようとしてくれている国王夫妻。何も言わないが優しく見守ってくれている王宮の人々。


 そういった周囲の姿も有難く、時に思いきれない不甲斐ない自分が申し訳なくもあった。


 そして気がかりは家族のことである。

 小市民を絵に描いたような父。いきなり高位貴族の中に放り込まれるだろう母。幼くして権力抗争に巻き込まれるかもしれない弟――巻き込んでしまう大きさを考えると、安易に頷くことは出来なかったのである。


 それが、もうとっくに腹を決めていたらしい。足枷のように家族のためと言っていては、せっかくの決心を無碍に踏みつけるようで、逃げるようである。


 だから決めたのだ。

 もし再びアマデウスが自分をと言ってくれたなら。

 自分の気持ちに素直に、ただ頷くのだと。



「ちょっと疲れた? お茶にしようか」


 何やら険しい表情のセレスティーヌを見て首を傾げると、アマデウスは呼び鈴を鳴らした。


「いえ、そういう訳では……」


 覚悟を決めて気合が入っていたからだとも言えず、セレスティーヌは首を横へ振る。


 しかし、自分が勉強をしている間もずっと執務や訓練をしていたはずのアマデウスを休ませるのも良いだろうと、お茶の一式を運んできた侍女から受け取り、お茶を淹れた。

 その間テキパキとお菓子を自ら並べるアマデウスに、本当に偉ぶらないのだなぁと思い、口元に笑みを浮かべた。


「さ、セレも座って!」


 ポンポン、とソファを叩く。

 素直に頷いて座ると、真面目な表情をしたアマデウスが、セレスティーヌを包み込むかのように見つめた。


(言うぞ……!)


「……セレ」

「はい」


 ふたりは顔を赤らめて見つめ合う。

 いよいよとアマデウスが大きく息を吸い込んだとき、大きな音をたてて執務室の扉が開いた。


「アマデウス! ……タリス嬢もいましたか。丁度いい」

「丁度良くないよっ!」


 いきなりノックもせずに入ってきたアンソニーに、アマデウスが声を張り上げ突っ込んだ。


「今から離島へ出るぞ。視察依頼だ」


 ニヤリと、相変わらず悪役のような表情をするアンソニーの言葉に、アマンダとセレスティーヌは顔を見合わせた。

もう間もなく、最終回となります予定です。

最後までお見守りくださいましたら幸いです。

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