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31 陞爵・叙爵式

「ドレス……ですか?」


 恐縮するタリス一家を怖がらせないため(?)に、いつもの如く柱の陰から見守っていた国王が頷く。


 今でこそ卒倒することはなくなったものの、非常にしゃちほこ張るタリス子爵に気を使って、いつもこっそりと様子を見ているのであるが。その姿に気づいたセレスティーヌが挨拶をすべく近づいたのであった。


 国王は嬉しそうに挨拶を返すばかりか、聞けば叙爵式で着用するドレスを贈りたいので希望の色はあるかと確認に来てくれたらしい。


 ……王家からドレスを贈っていただくなど、畏れ多いにもほどがある。


「手持ちのものを着る予定でおりますが」


 ちょっとした場所にも着て行けるよう、二年程前に作ったドレスである。

 流行のドレスに比べれば地味ではあるが、流行り廃りの少ないデザインで落ち着いた色合いのドレスを作ったのであった。


 備えておけば役に立つこともあるのだなと、一家揃って感心したのであるが。


 今回陞爵されるのはタリス子爵であるが、様々に功労者であるセレスティーヌも式に参加することになったのである。

……半年間行ってきたことを駆け足で紹介され、その労と結果とを称されることとなったのだが。


 セレスティーヌの答えを聞き、国王は絶望の表情を浮かべた。


「今、王妃とアマデウスが、どちらがセレスティーヌにドレスを贈るかで揉めていてだなぁ……」


 どういう訳か、王妃とアマデウスがセレスティーヌへどちらがドレスを贈るか言い争いをしているそうで、王妃に好きな色を聞いてくるようにと言われてやって来たのだそうだ。


 ……国王を使い走りに使うのはどうなのだろうかと思ったセレスティーヌであるが、公式ではちゃんとしていても、家庭の中ではかかあ天下なのかもしれないなと思い、取り敢えずいろいろな疑問を呑み込むことにした。


「私にはもったいないことで」


 恐縮しながら断ろうとすると、国王は必死になって首を横に振った。


「全然もったいなくないぞ! 手ブラで帰れば儂が王妃に……!」


(……王妃様に……?)


 銀色の瞳を瞬かせるセレスティーヌとは対照的に、国王が急いで周囲を見回した。


「とにかく、儂を助けると思って、好きな色を……っ!」


 鬼気迫る顔に、思わずセレスティーヌは顔を仰け反らせた。


「そ、それでは、お任せをいたします」


 ほとんど押し切られる形で頷くと、国王は嬉しそうに大きく頷いて、そしてほっとしたように大きく息を吐いてはセレスティーヌの手を上下に振った。


「ありがとう、ありがとう! 助かったぞ!」

「い、いえ……私の方こそ、何と御礼を申し上げればよいのか……ありがとうございます」


 そうして、何だかんだと煙に巻かれるようにドレス一式を受け取る羽目になったのであった。


「姉上……」


 経緯を説明すると、子爵夫人とライナスがため息をついた。




 そして。

 約束通り陞爵され、タリス子爵はタリス伯爵になった。


 案の定ガチガチで挑んだ子爵であるが、なんとか噛まずに拝命の言葉を紡ぐことが出来た。父だけでなくセレスティーヌもほっとして、周囲に気づかれないように息を吐く。


 名ばかりの伯爵であるが、今後高位貴族と交流を持つことも増えるであろう。


 タリス伯爵の言葉のあとに、やや得意気に国王によってセレスティーヌの半年間の取り組みや事件の解決などが紹介される。国への献身を讃え、記念のブローチが授与された。

 

 セレスティーヌ本人が叙爵するわけではないので、最後に礼を取るだけであるが。

 女性が行動を讃えられ記念の品を授与されるのは大変珍しいことであるのと、着ているドレスが上等な銀と黒のドレスであったため、参加者から熱い視線が注がれていた。


 アマデウスの髪と瞳の色ともとれるし、セレスティーヌ本人の瞳と髪の色ともとれたからである。


 式典が終わると、そそくさとやって来たアマデウスがセレスティーヌに近づきエスコートする。


「疲れてない?」

「少し……。陞爵・叙爵式など縁のある場所ではございませんから、緊張いたしました」


 小声で言いながら、セレスティーヌは苦笑いをした。偽らざる本心である。


 さすがにセレスティーヌも幾人かの視線を感じており、答えられないようなことを聞かれたらどうすればいいだろうかと危惧していたので、アマデウスに声をかけられてほっとした。


「堂々としてたけどね」


 言いながら、アマデウスは国王夫妻に目配せし頷く。

 国王夫妻も頷く。


 疲れたと言ったらすぐに退室させる為である。


 元々社交を好まないセレスティーヌを気遣ってのことと、存在が大きく知れて近づいてくる輩から守るためである。


 広間を出て行こうとするふたりに、タリス伯爵は縋るような瞳で見つめていた。

 当たり前であるが(?)、式の後は歓談という名の社交の時間である。


(交流、頑張れ……!)


 無言でアマデウスが首を横へ振ると、タリス伯爵は悲しみに満ち溢れた表情で肩を落とした。


 ……疲れているのはむしろタリス伯爵で、既にライフはゼロに近い。

 話を聞こうと何人かの人にロックオンされており、捕食される者の心境でもあった。


「ドレス、とても似合ってるね」


 黒い瞳を細めたアマデウスに、セレスティーヌは礼を言って微笑み返した。

 

 ギャイギャイ言いながらお互い一歩も引かず、結局王妃が布を、アマデウスがデザインと仕立てを受け持つこととなった。

 ドレスに合うアクセサリーだ靴だと、更に熾烈な争いが繰り広げられたことは言うまでもない。


 頑張れと心の中でハッパをかける国王夫妻。

 どうなんだと広間を出て行くふたりとタリス伯爵を交互に見遣る人々。

 そして戦々恐々とするタリス伯爵。


 ……慄くタリス伯爵を見て、程よきところで助けてやらねばとため息をつくアンソニーと大臣たちが、互いに視線を合わせて小さく頷いた。

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