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28 いざ王都へ

 ディバイン公爵邸で一泊させてもらい、午前中のうちに出立することとなった。

 家令は公爵はしばらく戻らないのでゆっくりして行ったらどうかと言ってくれたが、アマデウスたちは丁寧に礼を言って出てきた。

 公爵にも後日、充分な礼と労いが必要であろう。


 手配していた馬車が到着し、三人の愛馬も繋いでまったりと街道を走っている。


 そんな馬車の足元にはレトリバーが丸くなって眠っていた。

 今回の功労者の一頭である彼だが、野良犬らしく薄汚れているものの、訓練もしていないのになかなかの働きを見せてくれた。理知的な瞳を見ればこのまま帰すのもしのびなく、アンソニーは王宮で仕事をしてもらえないかと説得をし、アマデウスはのんびりと余生を過ごしてくれたらいいと思っているが、それはレトリバー氏の気持ちに任せようということになった。


 もちろんふたりが犬語を話せるわけがないので、キャロに説明をお願いしたのだが。


 何やらしばらく話し込んだ後、キャロが自信満々に右前脚を挙げていたので、多分話はまとまったのだろうと判断した。



「シウ・マイだけでなく、ラ・メンとか窯揚げシラスとか、もっと食べたかったのに」


 ディバインの領都の名産品であるシウ・マイを頬張りながら、アマデウスが旅の終わりを嘆いていた。

 ね? と同意を求められたセレスティーヌであるが、ディバイン領にどんな名産品や特産品があるのか、例の如く把握してはいない。オシャレな観光名所があるとは聞いているので通常なら行ってみたいと思ったであろうが、今回はがっつりと事件に関わったり今後の登用のことだったりと、いろいろあって、純粋に楽しめないだろうとも思えた。


 加えてジェイが馬車を走らせるのはまだしも、両隣を護衛騎士に挟まれて護られている。見慣れない風景に、セレスティーヌは緊張気味だ。


「王都の隣なんだから好きに食いに来たらいいだろう」

「どう考えても好きに来られるわけない」


 面倒そうに吐き捨てるアンソニーと、ジト目のアマデウスがいまだ口論をするように舌戦を繰り広げている。


『うきゅう……』


 うるさいとばかりにキャロは嫌そうな顔をして、大きな耳をピルピルと動かしては、セレスティーヌの膝の上で丸くなった。


 いろいろな場所へお使いに行かされていたミミズクも、今は羽根を休め御者台の上で眠っている。

 

******


 順調に馬車は街道を走って行く。

 どんどん人と店が増え、賑やかな景色が広がっている。


 宵の口と言ったほうがよい時間になり、ランタンの光に煌々と照らされる街並みは、年末の浮かれた人々が顔を赤くして歩いている。ほろ酔いの人々に向かい、土産物を売る商人と、再び飲ませようと声をかける呼び込みの掛け合いが聞こえてくる。投げ銭を期待する吟遊詩人や大道芸人が賑やかに彩りを添えていた。


 広大な王宮が見え始めると、セレスティーヌの身体に力が入るのが見てとれた。

 体調に無理がなければ是非挨拶をしたいと、護衛騎士を通して国王から伝言を受け取っていたためだ。


「気乗りしないなら、遠慮せず後日にしても全然、全く問題ないよ」


 アマデウスが柔らかい口調で念押しする。


 ……国王から言葉がけをしたいので登城するようにと言われ、行きませんと言える人間がいたら顔を見たいと思うセレスティーヌだが……その辺の心情もくみ取っての言葉だ。


「疲れているに決まっているんだから、後日改めて招待すればいいのに」


 国王に対しても辛辣な言葉を発するアンソニーは、清々しいほどにブレない。


 不敬にならないのだろうかと思い、セレスティーヌは上目遣いに王の息子であるアマデウスを見遣る。

 いつもは反目するアマデウスも、不敬どころか全くその通りだと頷いた。


「本当だよ。……半年間の労を労いたいのと、私の悪口を吹き込むつもりだろう」

「悪口というか、愚痴は言いそうだな。何はともあれそう硬くならなくても大丈夫だと思うが。国王はかなり気さくな方ではあるので、本当に礼を言いたいだけなんだと思う」


 アマデウスとアンソニーが、どことなく困り顔のセレスティーヌを見る。


「……恐れ多いです……御礼などいただくようなことなどしていないのですが」


 いやいや、充分しているだろうとはアマデウス。


 功労もそうだが、何よりもアマデウスの心変わりを促した女神として崇め奉っているに違いないとアンソニー。


 それぞれに思い思いの感想を持ちながら、顔を見合わせた。

 


 そうこうしているうちに、馬車は跳ね橋を通り大きな門をくぐり、王城の中へ入った。

 広い敷地を誇る王城は門から門までが長い。しばらく馬車を走らせると、何人かの人が立っているのが見える。


 その姿を見て、アマデウスが「うげぇ」と声を発する。

 セレスティーヌは人物を確認して目を丸くした。


「陛下……!?」

(と、みんな!?)


 とっぷりと日が暮れた中、松明が焚かれ、肖像画の通りの姿をした国王夫妻自らが待っていたのである。


 いつから待っていたのかと気を揉むセレスティーヌに向かい、笑顔で手を振る国王夫妻と、半歩ほど下がったところに、死んだ目をしたタリス子爵夫妻とライアンが立っていたのであった。

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