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21 その後・前編

 酷く長い時間に感じたが、実際にはあっという間であった。

「大丈夫か」

 ゆっくりと起き上がったジェイはアマンダの問いかけに頷き、セレスティーヌが無事であることを確認して息を吐いた。


「……ヘタこきました?」

「ジェイさん……!」


 涙目で傷を押えようとするセレスティーヌに、苦笑いをして首を振る。


「大丈夫ですよ? 見た目ほど、傷は深くありませんからね?」


 アマンダにセレスティーヌを任せたジェイが肩を押えながら、崖下を覗き込んだ。振り返りアマンダに向かって小さく首を振る。


 鳴り響く鐘の音が、今は鎮魂の鐘であるように感じられた。

 そして引き揚げられて顔を覆っているカルロの傷ついた腕を強く縛る。


「医者に診てもらいましょうね?」


 選抜隊の騎士たちも、仲間の負傷と被疑者死亡という事態に厳しい顔をしていた。

 爆発音を聞きつけて、近くを巡回していたディバイン公爵家の騎士たちが走って来るのが見えた。




「引き揚げるには高すぎるかと思います。ロープもなしに危険です」


 海流が複雑な動きをする地域であるため、慣れていない者がむやみに崖下へ降りるのは危険だと止められた。船で海側から近づくにも岩が多く接岸は難しいため、入水して対応する必要があるそうだ。


「しかし、息がある可能性も捨てきれん……」


 ピンクのドレスを着た大男が思いつめたような顔で引き下がらないため、公爵家の騎士たちは顔を見合わせた。


 岩の上に横たわる男はピクリとも動かない。

 落ちた高さや打ち付けられた場所からみて、生存の可能性は限りなく低いといえるであろう。誰もがそう思いながらも、また万が一を捨てきれずにいた。


「仰りたいことは解ります。……ですがなんの装備もなしに対応するのは危険過ぎます。出来る限り早く確認し、救助なり回収なりの手筈を整えます」


 真冬の海に今すぐ飛び込めというわけに行かないことは、アマンダにも解っている。


 しかし、どうにも引っ掛かるのだ。


 身内だけであれば自分が確認に行くと言いかねない勢いに、公爵家の騎士たちが来てくれてよかったとジェイも選抜隊の騎士たちも胸を撫で下ろした。反面、アマンダの命があるのならば早急に治療をしたいという気持ちも、生死をきちんと確認したいという気持ちも解らないではない。


 更に言えばいかに悪人とはいえ、亡くなったのなら少しでも早く身体に打ち付ける冷たい海水から引き揚げてやりたいとも思っているのであろう。


「今すぐに近くの漁師に船を出してもらうよう要請します。地上からは、応援を呼んで安全を確保出来次第、すぐに確認と対応をいたします」


 言いながらもうひとりの騎士に目線を送ると、受けた騎士は頷いて走り出した。伝令に言ったのであろう。

 今出来得る限りの対応を誠実に行なおうとしてくれているのは、アマンダにも感じられた。騎士とはいえ悪戯に危険に晒していいはずはなく、納得するしかない。


「申し訳ないがお願いする。くれぐれも誰かしらが、目を離さないようにしてほしい」


「承知いたしました。馬車というにはお粗末ですが、近隣から荷車がついた荷馬車を調達して参りました……皆様医師の診察を受けてください」


 全員煤や泥で汚れたばかりか、血がしみ出している者もいる。

 アマンダは注意すべきことを言い終わると、後ろ髪を引かれる思いでその場を離れることにした。

 

 その時小さな鳴き声がした。


『……うきゅ』

「キャロ!」


 馬から降り、小走りに駆けてきたキャロがセレスティーヌの腕に飛び込んだ。


「助けに来てくれてありがとう」

『うきゅきゅ!』


 セレスティーヌが小さなキャロを優しく抱きしめた。


 その横を、燃える倉庫の火を消すためにバケツやタライをもった住民たちが走り抜けていく。


「一旦、仕切り直しだな」


 アマンダは怪我のない選抜隊にこの場に残る者、各所への伝令に向かう者とに指示をした。

 そしてカルロとジェイ、セレスティーヌを荷馬車に乗せる。自身は投げた剣を腰に携え、同乗して万が一に備えることにした。


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