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18 逃亡

 思ったよりも平和ボケしていないというのが正直な感想だ。

 大きな争いがなくて久しい国であり、国政も上手く行っているためか民衆の不平不満も比較的少なく、のんびりしている国だと聞いていたが。

 


 国宝ではなく国宝を飾る装飾部分の額縁に手にかけた。

 比較対象がないため発見が遅れるか、場合によっては発見されないのではないかと思われていたはずが、意外にもすぐに見破られることとなる。


 正直予想外の展開であったが、何とか元の筋書き通りに進むことが出来た。


 その後本物そっくり……というよりも新しい金貨を作ったと言っても過言でない偽金を作ったわけだが。偽金と型を作ったまではよかったが、再び追手が来て追い詰められるとは思わなかった。



「いつものようにバラバラに逃げないで大丈夫なのかな」


『太っちょ』と呼ばれている小太りな男が、不安そうに言った。


「騎士や自警団とやり合う可能性を考えてだろう。時と場合によるが、人数が多い方が逃げやすいからな」


『痩せぎす』がそう言いながら周囲を見渡す。まだ真っ暗な道は見回りの人間か自分たちと同じ後ろ暗い人間かのどちらかだ。


 ひとりの方が小回りが利くが、集中的に追い詰められた場合、数がいた方がいい。攪乱することも、場合によっては誰かが囮となって他のものを逃がすこと・逃げることが可能だから。

 誰が逃げるのかは状況次第である。基本的には全員で逃げたいものだと全員が思ってはいた。


「散々俺たちの振りをして儲けている奴らが挙げられて、当分の間目隠しになってくれるだろうよ」


 ディバイン公爵が総力を挙げて炙り出しに掛かっているという情報も入ってきた。


 山を越え出国しなくてもよいのかと『紳士』に確認をしたが、紳士は今回、山は危険だろうと言っていた。海に大きく面していることと、街道が比較的開けていることから、旅人や商人ならばそちらを使う方が自然であろうと言っていた。


 ちなみに紳士はやたら丁寧な対応が得意だからそう呼ばれている。

 年端も行かない年齢から裏稼業を渡り歩いてきたようだが、元々はいいところの出なのだろう。物腰が柔らかく、頭が切れ、更に必要な時には酷く冷酷にもなれることから貴族みたいだと誰かが言ったのだが、貴族は嫌がったので『紳士』と呼ばれているらしい。

 裏稼業で知り合って、互いに腕を認めて組んでから五年ほどになる。

 以降同じような幾人かで組み、それぞれに得意なことを生かして大きな仕事をやり始めた。


 それならば山側を渡り歩く商人の振りをしたらどうかと『紳士』に聞いてみたが、そういった者たちは顔見知りが多いので、人が変わる時は引継ぎや顔合わせをしていることが多い。よって今の状況では不自然に思われると却下された。


 総じて閉鎖的な土地の人間は余所者に敏感であることは否めない。

 更には大規模な野焼きをする可能性があると、最後に接触した情報屋が言っていた。


「公爵の奴ぁ、本気で炙るつもりなんだな」


『しかめっ面』と呼ばれる人相の悪い男が小さくぼやいた。


 今は足がつかないよう地元のゴロツキや情報屋とも繋ぎを取っていない。公爵や王家の関係者たちに買収されている可能性があるからだ。


 何かあった時に乗り捨ててもいいように、事前に馬を用意してある。ディバイン領に来てからすぐ、農家など馬を持っている奴らに、事前につなぎ役を使って話をつけてあるのだ。


 約束通り馬代を家の中に投げ入れては馬を全速力で走らせ、極限までへばったら乗り捨てる。

 そしてまた途中の場所で馬を補給すると繰り返した。


 時間はだいぶ稼げたであろう。見回りと鉢合わせしないように充分に注意しながら港へ向かう。


 小さな漁船に見立てた船を用意してある。


 漁船として沖へ出て他の国に逃げるのだ。

 漁船として入出港する許可証は偽装してある。万が一の場合には、国の上層部の密命だという書状も用意した。こちらは数年前に使われたものを本物そっくりに写したものだ。

 少々高い買い物であったがいざという時に役立つであろう。自警団はもとより、騎士団でも検問や関所の確認をする末端の人間には、本物か偽造かなどわからないであろう。


「ここからは見回りが多い。くれぐれも下手こくなよ」


『痩せぎす』がふたりに言った。太っちょは素直に頷き、しかめっ面は面倒そうにちらりと視線を寄越した。余計なお世話だとでも思っているのだろう。


 痩せぎすは気にもせず大きく息を吐いた。ふたりに言いながら自分にも言い聞かせているのだ。


 三人は自警団の見張りの目を掻い潜りながら、偽装漁船へと近づいて行った。

 時折らしくもなく『紳士』の無事を祈りながら。

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