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16 出発

「念のため自分が先に出て周囲を確認しますから、しばらくしたら外に出てください?」


 そう言うとジェイは見張りがついているか確認をしに、窓からひょいっと出て行った。


「……多分、もういないでしょうけどね?」


 残した声に、三人も同意しながら小さく頷く。

 投げ文がこちらに渡った時点で、きっとすぐ動く事を想定しているだろう。向こうも次の行動に出ているはずだ。


「ゴロツキが下手に捕まって、面倒なことになっても困るだろうからな」


 アンソニーの呟きに、カルロは同意する。


 アマンダはキャロの頭を撫で労いながら、存分に食事を振舞う。余程お腹が減っていたのだろう、可愛らしい見た目からは想像も出来ないほどにガツガツと口に運んでいた。


(……セレ、ちゃんと食事を摂れているだろうか)


 アマンダはセレスティーヌの無事を願いながら、キャロの背を撫で続けた。



 どのくらいの時間が経ったのだろうか。程なくして、小さな馬の嘶きが聞こえてくる。


 注意しながら外を覗けば、ジェイが見慣れた馬を携えながら三人のいる部屋に向かって手を振っていた。


「……どうする、私たちも窓から出るか?」


 冗談とも本気ともつかないアンソニーの言葉に、カルロが苦笑いをした。


「一階ならまだしも、ここは三階だからね。万が一怪我をしたら危ないから、せめて裏口から出た方がいいんじゃないのかなぁ」


 誰も怪我などしないだろうが、警護が役目である者らしい判断だ。



 外へ出れば、アマンダの愛馬が準備万端とばかりに土を掻いている。

 アマンダは眉を上げてジェイを見遣った。


「……連れて来てくれたんだ」


 ジェイが相変わらずニヤニヤと笑いながら馬の首を撫でる。身体の大きな白馬は、カジカジとジェイの手を齧ろうと口と首を動かしていた。


「厩に置いてきぼりにするから、怒ってますよ?」

「ごめんごめん」

『ブフフン!』


 謝るアマンダに大きく鼻息を鳴らしながら、耳をピクピクと動かす。


「万が一に備えて、他の宿屋の厩に置かせてもらっていたんですよ? これからしばらく走り通しですからねえ?」


 体躯も大きくよく鍛えられた馬でなければ、すぐにへたばってしまうだろう。


 ふと見れば、人が来ても逃げる素振りもせず、穏やかそうな大型犬――レトリバーが大人しく座っているのが見える。既にジェイが水を飲ませたのか、水の入った皿が前に置かれていた。


 あの犬が道案内をしてくれたのだろうかとアマンダが近づいて膝をついた時、キャロがアマンダの肩から走り降りてはとことこと走り寄り、レトリバーに何やら説明をしているようであった。


『うきゅきゅきゅ!』

『わふわふ』


 ひと通り話し終わると、レトリバーはぺったりと地面に伏せる。キャロは勝手知ったるといった風に背中に跨ると、アマンダたち人間を見ては大きく頷いた。


『うっきゅ!』

「…………」


 四人が顔を見合わせる。


「案内してくれる……のかな。多分」


 アマンダの言葉に、再び無言のまま顔を見合わせた。


『うきゅ』

『わふ!』


 レトリバーも四人の顔を交互に見ては、早くしろとばかりに短く吠える。

 そうして、レトリバーに跨ったキャロ……いや、キャロを乗せたレトリバーを先頭に四人は馬を駆るのであった。


******

 月が照らす暗闇を、風のように走り抜ける。

 元々群を抜いて脚自慢の馬たちであるが、更に充分に鍛錬と訓練を積み、通常の馬よりもはるかに早く、そして長く走ることが出来る馬たちだ。


 投げ込まれた手紙の住所まではそこそこ距離があるが、短い休憩を挟めば、約束の時間までには充分間に合いそうであった。


「私はジェイとふたりで指定場所に向かう」


 途中まで一緒に走っていたが、約束場所とは違う方向へレトリバーとキャロが走って行った時にストップをかけた。


「……ふたりで大丈夫か」


 アンソニーが眉を顰めてアマンダとジェイを見た。


「大丈夫。あちらのご指定は元々ひとりだし……そっちには奴らの仲間がいるかもしれない。そこまで大人数ではないと思うが気をつけろ」


 抜け目のない奴らなので、既にもぬけの殻かもしれない。

 とはいえこちらがアジトに向かっていると解っていないはずなので、案外のんびりと眠っている可能性もないではなかった。


「キャロ、アンソニーとカルロをセレのいた場所に連れて行ってあげて」

『うきゅ?』


 小さく首を傾げたキャロの様子は、アマンダは一緒に行かないのかと聞いているように思えた。


「アタシは悪い奴らのお仕置きに、別の場所に行かないといけない……」


 セレを助けに行くと言おうとしたが、それなら自分もと言われるとアジトまでの案内がいなくなると思い、口を閉じた。


(セレはアジトに置いて来ている可能性も、ないわけじゃない)


 ――その可能性は限りなく薄いが。


 もしもアマンダが相手のいうことを聞かない場合、脅しとしてセレを使うはずである。


「わかる?」

『…………。うきゅ!』


 しばし考えるようにアマンダの顔を見ていたキャロは、任せろと大きく頷いた。


「じゃあ、アマデウス、くれぐれも気をつけて!」


 本来アマンダの護衛騎士であるカルロは、後ろ髪を引かれる思いで口を開いた。


「大丈夫ですよ? 任せといてください?」


 裏の護衛でもあるジェイが安心させるように落ち着いた口調でふたりを促す。


 アンソニーとカルロは、走り出したレトリバーを追いかけて、再び闇の中、馬と共に消えて行った。

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