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13 投げ文

 コツリ、窓に何かが当たる音がした。


「…………」

 四人は黙って顔を見合わせる。


 カルロは無言のまま部屋の扉近くに移動し、剣の柄に手をかけた。扉の向こう側の気配を探るが特に怪しい素振りはない。

 アマンダとアンソニーも、その場でそれぞれの剣を手に取る。


 ジェイが窓の側へ近づき外を覗き見る。窓を飾る花と花の隙間、ウィンドウボックスの中に小石を包んだ紙が落ちていた。拾い上げながら注意深く周囲を見渡すが、人どころか夜鳥の姿さえない。


 先ほど各所への連絡にミミズクを飛ばしたのを後悔したが、仕方がない。

 ジェイが包みを開くと、ちらりと中身を見ながら匂いを確認した。


「毒は大丈夫のようですね? なにやらデートのお誘いのようですよ?」

「デート? 本来なら気が進まない相手だけど、今回ばかりは願ったり叶ったりだな」


 アマンダが手を伸ばして受け取る。


「言葉が元に戻っているぞ」


 アンソニーの指摘に、アマンダは不機嫌を隠しもしない。


 ディバインは多くの領地が海岸線に接している。領都も例外なく東側が大きく海に面しており、観光名所のひとつとなっている。

 紙に書かれていた場所をカルロとアンソニーが確認する。


 ――ポート・フュチュールの倉庫に早朝、ひとりで来られたし――


「ポート・フュチュールの倉庫……?」

 アンソニーが記憶を探るかのように呟いた。


 ポート・フュチュールは港町におしゃれな店や食事処、整備された公園や美術館などが並ぶ観光地である。昔のおしゃれな建築で作った倉庫も名所のひとつとしてあるにはあるが、まさかそこではあるまいと眉を寄せた。

 大まかな住所が書かれてはいたが、すぐさまどんな場所か連想させるほど土地勘があるわけではない。


「あの辺は遊覧船くらいだろう。倉庫などあったか」

「名所がある辺りから外れた、ポート・フュチュールの端の方じゃないですか?」


 そこまで遠くないところに工房地区があるので、周辺に倉庫が点在している地域もあったはずだとはジェイの指摘だ。


「もっと倉庫が沢山ある場所があるだろうに……」


 カルロが隠れる所が沢山あり、解り難いところの方がいいだろうと指摘する。


「なまじ工房密集地の方だと、遅くまで働かさている人間や仕事帰りに酔って眠りこけている者、港の気の荒い者なんかもおりますからねぇ?」


 腕っぷし自慢に下手に絡まれたり無用な争いなどを避けたいので、比較的落ち着いた場所にある倉庫を選んだのだろうと思われた。


「……ここにセレは捕らわれているんだろうか」


 半信半疑のアマンダの呟きに、三人も顔を見合わせた。


「いや、お前の推測通り、どこかから待ち合わせ場所に移動して来るんだと思われる」

 アマンダの考えを代弁するようにアンソニーが言った。


「行方が判らなくなって、騎士団に捜索依頼を出しているのも織り込み済みだろうからね」

 カルロがそう言って頷く。


「これを投げ込んだ奴がいるように、金を握らせて動向を探らせているんでしょうからね? 伝達するのに多少時間はかかるでしょうが、こっちの動きは見張られてると思った方がいいっすね?」

「早朝か……こちらの体力と精神とを削る戦法だな」


 馬車か馬かで機動力が違うものの、指定場所まで飛ばしたとしてもそこまで余裕がある時間を与えられたわけではない。むしろ土地勘がない今、すぐに出立すべきであろう。


「この場所がダミーの可能性もあるしね」


 カルロの言葉に三人は再び、指示の書かれた紙を見る。

 既にアマンダの性格などは調査済みであろう。セレスティーヌの安全を考えれば、騎士団を大人数引き連れて行くとは考えていないはずだ。


 それでも万が一にも捕り物を優先しようとする可能性も考えているかもしれない。

 数で攻めて来られてとしても捕まらないよう、何か策を練っているかもしれない。


「本当の場所に誘導するために、手紙でも置いてあるパターンですか?」

「……少なくとも、指定された場所以外にアジトがあることは確かだな。今までのやり口から考えて、全滅しないように考えているだろう。今回も複数に別れて行動する可能性が高い」


 既にディバイン公爵に各港検問を強化するように伝言してある。

 大っぴらに警戒しているという形をとらず、入出港、特に出港を制限する旨対応がなされているはずだ。

 各関所も同じであろう。


「何が目的なんだろう……」

 アマンダは視線を斜めに上げた。


 逃走資金、当人たちの身の安全。高飛びのための見逃し……

 既に仲間は外に出た可能性もあるし、今現在も他の犯罪を重ねている可能性もある。

 幾つにも選択肢があり過ぎて、到底絞り切れない。


「反故にされるとは思わないのかな」

「思わんだろう。出来ないと踏んでいる」


 カルロの言葉をすぐさまアンソニーが否定した。

 だからこそのセレスティーヌなのだ。


「実行部隊というか末端と言うか……金で雇った後腐れない人間が多いですからね? 案外本体は思ったよりも少人数かもしれませんけどね?」


 取り分の問題もある。また人が増えれば増えるほど揉め事も裏切りも増える。


「……まあ、油断しているだろうアジトを叩くのが一番いいってのは確かだな」


 アマンダがそう言ったところに、聞き慣れた鳴き声が耳を掠めた。


『うきゅ! うきゅ!』


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