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11 合流・前編 

「大丈夫か」


 いきなり声をかけられ、肩を叩かれたアマンダは後ろを振り向いた。

 そこには息を弾ませたアンソニーとカルロが立っていた。馬を二頭連れて歩くのも何なので、近くに預けて来たのだろう。


(……酷い顔だな……)

 アンソニーは内心でため息をつき、カルロは心配そうにアマンダを見た。


 セレスティーヌが攫われてからずっと、目撃者がいないか宿場町を歩き回っていたのだろう。焦りの滲む黒い瞳は涙など滲んでいないはずなのにどこか揺れて見える。気持ちを押し殺し冷静になろうとしているのだろう、眉間、そして口元に強く力が込められているのがわかった。


「急がせて済まない」


 取り繕う相手もいないからか、アマンダ本来の声だ。

 仕事ならまだしも、プライベートなことで周囲を頼ることはしないアマンダだ。それは共も護衛もつけずに旅立ったことからも解るだろう。

 人の安全がかかっているため、迷わず召集をかけた。


「いや。元々合流するつもりだったので、こちらに向かっている途中だったんだ」


 アンソニーの言葉にカルロも頷く。

 それは偽りなく、行く先々で何かしらをやらかすふたりと一刻も早く合流すべく、所用を済ませたふたりは馬を走らせていた最中であった。

 見慣れたミミズクが飛んで来て、文字通り駆けつけたのだ。


「食事していないんでしょう? ジェイが来るまで少し休もう」

 カルロが心底心配していると言わんばかりの表情で言う。


「……一刻も早くと焦る気持ちは解るけど、アマデウスが倒れたら元も子もないよ」


 休んでいられるかとでも言おうと思ったのだろう。開きかけた口から言葉が出ることはなく、力なく閉じられた。


「今までの話を確認する。情報共有だ」


 アンソニーは落ち着いた声で、必要なことだけを告げた。全員で心配の言葉を連ねたところで心は休まらない。

 アマンダは、目の前に立つ友人であり側近でもあるふたりの顔を見て小さく頷いた。


 どこで誰が見ているやも、場合によっては襲撃を仕掛けてくるかもしれない。

 さすがに街中で騎士相手に剣を交えようとするとは思えないが、隙をつくという言葉もあるくらいだ。予想とは違うことをするのが人間である。


 道案内のためアンソニーが先頭に、護衛対象であるアマンダを挟んでカルロが殿についた。



 話し合いのために宿の一室を借りておいたのだろう。宿の横の馬留にふたりの愛馬が並んで草を食んでいた。アンソニーは自分の髪を結んでいた髪紐を解いて、馬装具の頭絡部に馬の邪魔にならないよう結んだ。ジェイへの目印である。


「様子のおかしな人間はいないか?」

 カルロに確認しながらアンソニーは自分でもおかしな気配がないか探る。


 一階には昼は食堂、夜は酒場といった食事処が常設されており、一般的なオーベルジュだ。


「見るからにおかしな奴はいないけどね。そんな奴らならとっくに捕まっているだろうから、きっと普通の見た目なんだろうね」


 カルロも視線を走らせながら確認する。

 階段を上がる時にアンソニーと入れ替わり、カルロが前に立った。ギシギシ鳴る廊下を進みながら、死角になる場所がないかを丹念に確認する。

 そして両隣の部屋の扉に耳をつけ、集中して気配を探った。


 カルロはアマンダとアンソニーに向かって右手をヒラヒラと動かして見せる。

 問題なしということだ。


 なるべく人に見られないように、滑りこむように押えておいた部屋に入る。そして自分たちを探る視線がないか注意しながら静かに扉を閉めた。

 


 部屋には西日が差し、飾り気のないベッドの上が茜色に色づいていた。もうじき日が沈む。

 窓や棚などが開けられたかわかるように仕掛けたそれに異変がないか確認し、ここまで犯罪集団が入り込んではいないことを確認してやっと椅子に座ることにした。


「タリス子爵には知らせたの?」


 誰かが攫われたとなれば、普通はその家族に一番に知らせるべきだろう。子爵に向けた謝罪の念が滲む声で確認するアマンダに、アンソニーが首を振る。


「いや……本来はすぐ知らせるべきなのだろうが、子爵の性格からして余計な心配をかけるだけだろう。万一同行すると言われて合流に時間を取られるのも何だし、護衛対象が増えると動きが鈍くなる。火急速やかにタリス嬢を無事奪還し、その上で三人で詫びを入れよう」


 事後報告ということだ。

 子爵の性格から、格上もいいところの三人に揃って頭を下げられたら飛び上がって白目を剥きそうであるが……カルロはそんな想像をして、身体に似合わない愛らしい垂れ目を瞬かせた。


「もうじきジェイも合流するだろうから、それまで少しでもお腹に入れておきなよ。いざって時に動けないよ」


 カルロはそう言って、背負っていた鞄の中からパンと焼き菓子、そして幾つかの果物をテーブルの上に置いた。食べられそうなものを食べろということだろう。


 アマンダはふたりにこれ以上心配をかけないよう、そして来るべき時に備えるようにそれらを手に取り、口へと運んだのだった。

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