表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/167

8 キャロ、走る

 アマンダはセレスティーヌの旅行鞄を覗き込む。

 ……勿論乙女の秘密を暴こうというわけではない。キャロの確認である。


 鞄の一部を改造して、キャロの部屋のような場所を作ってあるのだ。国内をずっと旅しているため、乗合馬車に乗る時など、周囲に配慮して鞄に入っていてもらうこともある。息苦しくないよう、更には外の景色を見たりできるように改造して窓をつけたのであった。


 先程の子どもに確認したところ、なぜ鞄に窓がついているのか不思議に思い、真っ先に覗き込んだという。鞄を拾ったときには既にいなかったと言っていた。


(……セレと一緒にいるのかしら)

 心配で悪い想像ばかりが頭を過るが、どうしようもない。


(行き先が解っているならすぐにでも乗り込むけど……やみくもに動いたところで悪手でしかない。早急に集合してもらって、対策を練るほうがいい)


 本当は今すぐに追いかけて、すぐさま救出したい。


 逸る気持ちを押えて、セレスティーヌとキャロを救出する可能性を少しでも高くしなければならない。

 アマンダは感情を無理やり抑え込み、ミミズクに伝言を託して放つと、セレスティーヌ連れ去りの目撃者がいないか聞き取りをすることにした。


*****


 今から少し前のこと。


 セレスティーヌを馬車に乗せるときに、男は鞄を取り上げて道へ放った。

 先ほど注意を引いた子どもが物陰からこちらを窺っているのが見えたから、敢えてエサを与えたのだ。少しでも金目の物をと思い拾って売り払うなりするつもりなのだろう。


 少女がいなくなったことに連れの女装した大男はすぐさま気づくことだろう。不釣り合いに大きな鞄を持った子どもは目立つはずだ。子どもが何か知っていると思い、しばし注意をそちらに向けることが出来るであろうと考えてのことだ。


 セレスティーヌはセレスティーヌで何も言わずにされるがままにしておいた。小動物を連れていることがみつかれば、粗雑に扱ったり残忍な目に合わされるかもしれないからだ。

 キャロがそんな目に合うことは避けなければならない。


(キャロはとっても賢いもの。きっと私がいなければアマンダ様のところへ向かうはずよ)


 中に人間が入っているのではないかと思うほどの様子を見せるキャロだ。普通なら考えられないことであるが、彼ならちゃんと状況を鑑みて行動するに違いないと思うと共に願ったのである。



 放り投げられた鞄が反動で半開きになると、中からキャロがずり落ちて地面にペッチャリと顔をつけた。


『うきゅ!?』


 チンチラは基本的に夜行性である。

 キャロは比較的昼間にも行動する方ではあるが、鞄もとい自分の部屋に入れられて揺らされていると、ついついウトウトしてしまうのだ。

 今も気持ちよく眠っていたところだったが、いきなり大きく揺れたと思ったら床に叩きつけられたのである。


 何ごとかと寝ぼけまなこで周囲を見渡せば、どういう訳かセレスティーヌが見知らぬ男によって馬車に押し込められているのが視界に入る。


 何が起こっているのかわからずに周囲を見渡しアマンダを探すが、見当たらない。


 ――誘拐、そんな言葉がキャロの脳裏を掠める。 

 そうこうしているうちに馬車の扉が閉まり、走り出そうとしているではないか。


(マズい!)


 キャロは小さな手足を大きく動かして地面を蹴った。

 自分を巻き込まないためなのだろう、セレスティーヌは敢えて後ろを振り向かなかったとみえる。


(待てぇぇぇぇぇっっ!!)


 ちょこちょこと短い足を懸命に動かし、引き離されないように懸命に走る。

 そして渾身の力で後ろ脚に力を込めると、馬車の足乗せ場に飛びつき、吹き飛ばされないようにコーチの僅かな出っ張りに身体を滑り込ませた。


 チンチラのジャンプ力は折り紙付きで、一メートル程を飛ぶ。

 キャロは大きく息を吐いて顔の毛並みを整えると、隙間から顔を出して周囲を見渡した。


『…………』


 路地裏ともいえる寂れた場所は人がまばらだ。


 アマンダの姿もなかったため、きっと異変に気付いていないのだろう。


(……というか、気づいてたら助けに来ているもんなぁ)


 アマンダはセレスティーヌをとても大切にしている。このような暴挙を見たら最後、あの逞しい腕でもってブンブン振り回して投げ飛ばし、壁にでも叩きつけているに違いない。


 セレスティーヌと一緒にいた人間はアマンダやジェイたちと違い、嫌な匂いがした。悪い奴らだ。チンチラの勘がそう言っている。


 どんどん速さを増す馬車から見る景色は流れるようだ。

 アマンダのところに知らせに行っている間に馬車は、きっとどこかへ行ってしまうことだろう。


(このままみつからないようにしないと……!)

 

 ピンと伸びたひげをヒクヒクと動かすと、ふんす! と鼻息荒く頷く。

 コーチの中にいるだろうセレスティーヌの気配を感じて、すぐさま周囲に視線を移した。


 キャロはスピードの乗った馬車に振り落とされないよう、しっかりと力を込めてしがみついた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ