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6 報告

 隣町の入り口には見慣れた顔が待ち構えていた。


「いらっしゃいましたね?」


 相変わらずニヤニヤしながら気安く手を振る姿に、アマンダは眉を顰め、セレスティーヌはホッとした。


 その辺の騎士や護衛よりも強いアマンダであるが、本来はやんごとなき身分なのである。元々ゴロツキに絡まれているところを助けてもらったセレスティーヌだが、その身に何かあったらどうすればいいのかと気が気でない。


 本人も護衛も、側近もその辺りをどう考えているのか。意外にも無頓着なほどに放って置かれているのだが……大丈夫だという判断なのであろう。多分。



「……そのお姿でお嬢様のご実家に行ったんですか? ……言い訳しておいてよかったですねぇ?」


 後半の言葉は自分に対しての労いである。

 今後のことを考えれば元の姿で来訪した方が良かったのではないかと思うジェイだが、主であるアマンダが決めたのなら仕方があるまいという表情だ。


 お忍びのあれこれがバレないよう、念のために世を忍ぶ仮の姿で旅をしていると説明しておいたのが役に立ったようだ。

 ……それでも却って目立つと思うのだが、というツッコミが入りそうだなとジェイは思う。


「例の捕まえたひとりですが、犯人たちを知っていると吐いたそうです? ただ、事件そのものへの関与は認めず、自分は金を貰って情報を流しただけだと言っているみたいですねぇ?」


 宿屋に向かうべく歩きながら、報告書を差し出した。


「……まさか、信じてはいないでしょうね」

 アマンダの問いかけに、ジェイは頷く。


「中央に送致して、爺さんに遠くから顔を確認してもらう予定だそうですよ?」


 彫師が顔を見ていたとすれば、より言い逃れが難しい証拠となる。

 じっくりといろいろな角度から尋問をすれば、どんなに綿密に話を作りこんだとしても、どこかに必ず綻びが生じるものだ。


「そしてディバイン領ですが、最近犯罪が増えているのは確かみたいですね?」


 ジェイによれば、身代金目的の誘拐、強盗、違法な品物の売買や詐欺まがいの事件が多発しているのだという。


「とんでもなく増えたならまだしも、それだけではね」


 渋い顔をするアマンダにジェイが再び頷いた。

 その内容が更にアマンダの表情を渋いものにさせる。


「例の如く、危ない橋は金で雇った奴らにやらせてますからね? ……ただ、少し前に西側の国々で問題になった違法薬物が多く出回っているそうなんですよ?」

「西か……奴ら、西から来たんだっけ」

「大陸中どころか、別の大陸にも足を延ばしていたようですけどねぇ? 数年前に北で詐欺で荒稼ぎをして、捕まらずに消えた犯罪者たちがいました? そして数か月前には西で違法薬物の大々的な事件があったようですね?」


 被害に遭った国々が外へ情報を発信していないので、内偵者たちが集めた情報と、チラチラと聞こえてくる噂話を総合しての判断だということだ。

 わざわざ噂話を出すのは、それが同じ人間たちの仕業だと予測しているからだろう。


「……そんなに大陸中を縦横無尽に、誰がバックについているの?」

 アマンダはジェイに向かって首を傾げた。


 大貴族か。どこぞの国の王族か。

 はたまたやり手の大商人たちか。


「そんな人たちが背後にいれば、却ってわかり易かったんですけどねぇ?」

 ジェイはため息をついて小さく首を振った。


「じゃあ、まるっきり自分たちだけでってこと?」

「今のところ、そういう結果ですね? 下手に偉い人間に貸しを作ると搾り取られるだけ搾り取られて実入りが悪いですから?」


 上前をはねるのが上手な貴族にたかられては利が出ないということか。

 ……てっきりどんな大物が控えているのかと構えていただけに、拍子抜けすると共に信じられない思いでもある。


 国を跨いでの逃避行、犯罪の数々。

 一介の人間たちが行えるものなのだろうか疑問でしかない。


「首謀者なり中心人物が、広く顔の効くような人物というわけではない……のですよね」


 セレスティーヌもアマンダと同じように疑問に思っている。

 他の国々でどれほどの犯罪を起こし重ねて来たのかは不明であるが、そんなに捜査の目をすり抜けたり誤魔化したり、出来るものなのだろうか。


「おふたりの言いたいことは解りますがねぇ? まあ、全容が見えているわけではないので確定ではないですが……少なくとも目立つ人物が手を貸していたり動いているとは考えられないようですね?」


 物騒な会話とは裏腹に、ふと目をやれば、宿場町は賑やかな飾りつけで溢れていた。

 いつの間にか冬といって差し支えない季節になった街は、軽快な音楽が流れている。旅の吟遊詩人や小金を稼ぐ演奏家が、酒場で演奏をしているのだろう。


 今年最後の月を向かえたエストラヴィーユ王国は、賑やかで忙しい時期を迎えていた。何処か浮足立ったように楽し気だ。


 年末には一年の無事と頑張りを労うためのお祭りが行なわれる。その飾りつけで街中が明るく賑やかに見えた。

 そして年の初めには大陸の多くの国々が信仰する神へ、新しい一年が良い年であるように祈りが捧げられるのだろう。


「悪いけど、西に行って今回の奴らなのか調べてもらえるかしら」

 アマンダの言葉に、ジェイが珍しく顔を引き締めた。


「もうじきディバイン領ですが、護衛がいない状態で大丈夫ですか?」


 アマンダに合流するつもりでいたのだろう。

 それだけ油断ならない集団だということだと言える。


「今までの状況から上層部に質問を投げたところで、ちゃんとした回答が返ってくるのか疑問だもの。実際に被害に遭った人たちに確認した方が確実でしょう」


 ジェイは珍しく暫し逡巡してから頷いた。


「流石に今回の奴らは厄介そうですから、充分に気をつけてください? 出来ればアンソニー様方が合流されてから動いてください?」


 中央へ報告と処理しなければならないものを熟しに行った面々の名を出す。

 アマンダが彼らに勝るとも劣らない強さであることは承知しているが、セレスティーヌも同行していることもあり万全を期しておきたかった。

 心配性な護衛兼隠密に対して、アマンダは表情を柔らかくした。

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