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【完結】オネエ様と一緒!~厳ついオネエと追放令嬢のぶらり途中気まま旅~  作者: 清水ゆりか
第一章 東の盗賊団

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7 美男子現る!?

「アマンダ様。一度お湯を使って身支度なさってくださいませ。私は外へ出ておりますので」

「うん……ごめんね」

「……大丈夫ですよ」


 無理に涙は引っ込めたのだろうが、赤く腫れた目元が痛々しい。


 そっとしておいた方が良いのか、何か気の利いたことを言った方が良いものか。

 薄っぺらい言葉をかけても、意味はないだろう。

 散々迷いながら頭を悩ませたが結局上手い言葉が出ては来ずに、そのまま小さく会釈をして廊下へ下がることにした。


 一瞬、超高位貴族なのだとしたらお世話が必要なのだろうかとも考えたが、見ず知らずの男性の肌を見ることには流石に抵抗がある。


 一応侍女として雇われた身であるが、セレスティーヌが同行しやすいようにという気遣いからの言葉だと思う訳で。

 

 多分本気で身の回りの世話をさせようとは考えていないように思えた。

 それを証拠に荷物は全てアマンダが持ってくれていたし、注文をするにしても何にしても、基本はアマンダがすべて仕切ってくれている。


(万が一、駄目そうだったらお手伝いするという方向で……)


 セレスティーヌが自分に言い訳をすると、お湯をテーブルへ置き、そそくさと部屋を出て扉を閉めた。



「もういいわよ……ちょっとさっきとは違う姿になってるケド」

「はい……?」


 小さく呼びかけられた。

 どこにいればいいのか解らずに、扉の前に座り込んでいたセレスティーヌはゆるゆると立ち上がる。


 お湯で顔を洗ったのならば、あの青と赤が印象的な厚化粧がなくなっていることだろう。そう連想しては、扉に向かって声をかける。


「失礼しま……す?」

「どうぞ」


 おずおずと扉を開くと、銀色の短い髪の男性がソファに鎮座していた。


 涼し気な目元。引き締まった口元。男性らしいしっかりした骨格ではあるが、綺麗と言って差支えがない顔立ちは、けして厳ついわけではない。


 寝間着なのだろう簡素なシャツとズボンが、否が応にも逞しく引き締まった体躯であることを示していた。


(え……!?)


 思わず瞠目して、目の前のアマンダ(多分)をまじまじとみつめる。

 恥ずかしそうに視線を横に流したアマンダが、大きな手で顔を覆った。


「嫌だぁ……あんまり見ないでっ! スッピンなんて恥ずかしぃっっ!!」


 セレスティーヌのワンピースの肩が、ズルリとズレる。


(いやいやいやいや)


 好みの問題ではあるが、他人に聞かせたら十中八九、女装の方が……と言葉を濁されるであろう。 

 人の趣味趣向に文句は言わないものの、アマンダの姿は女装姿よりも男装(?)の方がずっと似合っていると思うセレスティーヌだったが。


「カツラだったのですね……」


 取り敢えず、テーブルの端に置かれている金髪・縦ロールのカツラを見遣った。


「彼の好きな子が、金の髪だったから……」


 もじもじと指を動かす姿は、確かに恥じらっている時のアマンダで間違いないであろう。

 


 綺麗な銀髪なのにとセレスティーヌは思う。


 銀髪は、王国に古くからある由緒正しい家柄に現れることが多い。

 親子で遺伝をすることもあれば、時折隔世的に出現する場合もある。片親が黒や茶色といった濃い色合いの髪であったなら、濃い色の方が遺伝しやすいためだ。

 金や銀といった薄い色合いの髪は遺伝し難いので、必然的に濃い色味の髪が多くなる。


 特に金よりも珍しいと言われる銀の髪を持つのならば、侯爵家以上の家柄だろう。

 高位貴族は高位貴族同士で婚姻することが殆どなため、身体的特徴を見るだけで出自を推測できることがあるが、銀髪がそのひとつだ。


 その上この見目であるならば、確かにご令嬢たちが放っておかないであろうと思う。

 端的に言ってハンサムとかイケメンといわれる顔だ。その上、背も高く逞しく、家柄も良い。性格だってセレスティーヌを放っていられずに面倒を見てくれる『善い人』である。


 大立ち回りの時のキップの良さと、恥じらう姿のギャップが凄いが。


(……ダニエルみたいだったら、モテまくりな人生だったでしょうに)


 彼の婚約者のようであったならば、女装をするという行為に向かわないのだろうけどとも思いつつ。


「こんな男のナリで怖くない? 大丈夫?」


 セレスティーヌは昼間悪漢に絡まれている。

 自分が体格のよい方だと自覚のあるアマンダは、目の前の少女が男性以外の何ものでもない自分に恐怖感を持っていないか気が気でない。


「カツラとドレスで寝ようかとも考えたんだけど」

「大丈夫なのでお止めください。キツくて眠れませんよ……」


 悲壮な顔でそう言いながら、無理と悟った様子がおかしくて。

 ふふふ、セレスティーヌは小さく笑い声をあげた。

 更にいびきをかきながら、カツラのズレている寝姿を想像しては肩を揺らす。


「ネグリジェではないのですね?」


 寝間着は男性のそれだ。


「あぁ……眠っているととんでもない格好になっちゃうから。お腹を冷やしてしまって、翌日大変だったことがあるのよ……」


 ゲンナリしながら言う様子に、事実なのだと思い再び肩を揺らした。

 その様子にアマンダはホッとする。


「アナタも着替えちゃわないと。お湯貰ってこようか?」

「いえ。もう一度行って参ります」


 まるで別人のアマンダが下へ降りて行ったら、何事かと騒ぎになりかねない。


「ごめんなさいね。明日はお風呂のある宿を探しましょ!」


 セレスティーヌはお湯の入ったタライを抱えると、頷いて再び下へ下がって行った。



 パタン、という扉の音にアマンダは小さく息を吐いた。

 怖がられないこともだが、何より、身バレしていないようで安心したのだった。


「実家で父親の手伝いばかりしてたって言ってたわねぇ」


 確か、社交にもそれほど熱心ではなかったと言っていなかったか。


 王都のど真ん中とユイットでは、同じオステン領とはいえ微妙に距離がある。大きな夜会でもない限り、中央の社交へ出向くことはないのであろう。


 ましてや低位貴族と高位貴族では重ならない社交も多い。人脈を広げることが目的であるとはいえ、密になるコミュニティというのはまた別のものであるのだ。


(……瞠目した時には焦ったけど。大丈夫なようね)


 色々な意味で安心したアマンダだが、湯桶を持って戻って来たセレスティーヌに部屋を譲り、着替えと身支度をしてもらった。


 寝間着姿で廊下で頬づえをついている自分を客観的に想像して、思わず笑う。



 そして何とも無防備な姿の互いを見ながら気恥ずかしくなる……ことはなく、どちらがベッドに眠るかで揉めることとなった。


「女の子をソファになんて、眠らせられる訳ないでしょうに!」

「侍女が主人を差し置いてベッドに眠るなど、ありえません!」


 ぐぎぎぎぎ。睨み合う。

 双方最もな意見に、互いに全く引く様子がなかった。


 主人の命令ということでアマンダが押し切り、一度セレスティーヌがベッドを使うことになった。

 

 しかし部屋付きのソファにはどうやってもアマンダの身体が収まらず、無念の交代となったのである。

 身体を伸ばせばその半分近くがソファからはみ出し、丸まればソファに収まらずで、『横になる』ことすら不可能だったからだ。


 そして現在。ベッドからすら足が飛び出している長身のアマンダは、ソファに小さく丸まっているセレスティーヌをみつめている。

 目が腫れないようにと、気を利かせて持って来てくれた冷たい手巾は、彼女を眺めている間はおでこに載せておくことにした。


 小柄な彼女は毛布に丸まって、疲れたのだろう、既にすよすよと寝息をたてていた。


 ソファでは疲れが取れないだろうから、一緒にベッドで横になろうと提案したのだが。大柄過ぎるアマンダひとりで、小さなベッドはぎっちぎちだったのである。



「……何やってるのかしらねぇ」


 アマンダは小さくぼやいては苦笑いをした。

 セレスティーヌとてんやわんやしている内に、さっきまで泣いて悲しんでいた失恋のことはどこかに飛んで行ってしまっていた。そう気づいて、ひとり驚いた。


 こんなに穏やかな気分は、いつぶりであろうか。


 勿論多少の胸の痛みはあるが。

 身も世もなく、あんなに嘆き暮らした日々は何だったのかと思うくらいだ。

 業を煮やした父に『いつまでもウジウジしているなら、外へ出て問題解決でもして来い』という言葉と共に家を追い出された訳だが、意外にも功を奏しているのかもしれなかった。


「うふふ」


 部屋の中は暗い。

 窓に差し込む月明かりの淡い光と共に、小さな笑い声がそっと溶けた。


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