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35 ジェイド公爵

 物陰に隠れ、引継ぎと調査依頼をするジェイド公爵とアンソニーを、アマンダがじっとりと観察している。


「…………。なぜ隠れているの?」

 友人として話しているのだろう。不思議そうな顔をしたカルロが、首を傾げながらアマンダに確認した。


「公爵に見つかったら面倒なことになるから!」

 小声で叱りつけるように告げると、ジト目をしたままカルロを見遣る。


「そんなデッカい身体で立ってたら見つかるでしょ! こっちに隠れて!」

「う、うん?」


 カルロは言われるままにそそくさと物陰に隠れる。

 元々小柄なセレスティーヌは、言うまでもなく大男ふたりの陰すっぽりと隠れていた。


(アマデウスの方が僕よりデカいんだけどね)


 確かに小柄ではないものの自分より大きな者に大きいと言われ、釈然としないカルロであった。


『うきゅきゅ?』


 キャロがアマデウスとカルロを見比べて首を横に曲げた。

 物陰からキャロ、セレスティーヌ、カルロ、そしてアマンダの顔が順々に飛び出している。




 一方で事件の詳細を改めて聞かされるジェイド公爵が、目の端にチラチラするおかしな格好をしたアマンダにお付きの人間、そして小さなチンチラを見て何とも言えない表情をしていた。


「……殿下にご挨拶させていただきたいのだが……」

 アンソニーは小さく頷きながら、申し訳なさそうな顔で口を開く。


「大変申し訳ございません。殿下は特殊任務中でして。……本来ここには居ないことになっているので公爵にご挨拶できず心苦しく思っており、非礼をお許しいただきたいと申しておりました」


 嘘八百である。


 アンソニーの説明を聞き、再び物陰に隠れるアマンダと目の前のアンソニーを交互に見た。


「いや、許すだなどと……。……特殊任務? あの格好で?」


 公爵は怪訝そうな顔をした。それに対しアンソニーが真顔で相槌を打つ。


「はい」


 口から出まかせである。内心で面倒をかけるアマンダに向かって、覚えていろよと悪態をついた。


「……まあ、そういうことでしたら……どうぞよろしくお伝えを」

「畏まりました。それでは今回の調査の件、宜しくお願いいたします」


 何か言いたいことを呑み込んだような公爵に、にこやか且つ素早く締めくくった。


******


「真面目そうな普通の方でしたね」

「エストラヴィーユ王国公爵家の良心だと思うわ」


 セレスティーヌが至極素直な感想を述べる。それに対してアマンダが金の巻き毛のズラを揺らしながら答え、カルロとアンソニーがうんうんと頷いた。


 おかしな……いや、大変に個性的な公爵が多いせいか、極普通なジェイド公爵にほっこりとする。とは言え、経済の父と呼ばれる超やり手であるジェイド公爵。能力は普通である筈などなく、キレッキレなのであるが。


「お前が変な格好をして隠れているから、誤魔化すのが面倒だったぞ」

 アンソニーが嫌そうに眉根を寄せた。


「いつまでもその格好を続けるなら、いっそのことその格好で前に出ろ」

「それは別に構わないけど、せっかくの旅行中なのに社交に駆り出されるのが嫌なの!」


 ギャイのギャイのと言い合いをするふたりを見て、カルロとセレスティーヌが苦笑いをする。


「仲が良いんですね」

「昔っからああなんですよねぇ」


 大柄な騎士でありながら、人懐っこい柔らかい雰囲気のカルロが微笑んだ。

 カルロはキャロを抱きかかえるセレスティーヌをまじまじと見て、微かに首を傾げる。


「あの……アマデ……アマンダ様のことはご存じですか?」


 大きな身体をかがめて、小声で確認をする。

 セレスティーヌの丸い銀色の瞳と、キャロの黒いまん丸の瞳がカルロを見つめた。


「詳しくは存じ上げませんが、とても高貴な方なのだろうとは想像しております」

「…………そうですか」


(まだ言ってなかったのか……)

 やっぱりと思う反面、駄目だろうとも思う。


(言い難いのだろうが)


「うーん、僕から言っていいのかなぁ」

 困ったような表情で小声で呟いた。


「大丈夫です。何か理由があって、違うお名前を名乗っていらっしゃるのだと思うので……アマンダ様がお話しになりたいとお思いになるまで、待ちます」


(そもそも、私にとってはアマンダ様はアマンダ様ですもの)

 セレスティーヌは微笑んでカルロの青い目を見た。


「そう……ですね。変な奴ですけどいい奴ですので、まあ長い目で見てやってください」


 カルロは困ったように眉をハの字にして笑う。

 知ってますと心の中で同意しながら、セレスティーヌも笑った。


 未だギャイのギャイのと言い合いをしているアマンダとアンソニーを、街道を行きかう人が二度見しながら振り返って行く。


 再び苦笑いをして、カルロとセレスティーヌが顔を見合わせた。


『うきゅきゅ……』

 キャロが小さな手を広げては、呆れたように首を振った。

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