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32 それぞれに

 リーダー格の男は、途中騒ぎを聞きつけすれ違うふりをして接触してきた何人かの仲間に、小さい布に包んだ金貨を手渡した。


 旅の商人を装うので多少多く持ち合わせていても問題ないだろうが、万が一検問に引っ掛かった場合に備え、不自然でない程度の持ち合わせの方がいいだろうと考えてのこと。

 わざわざ危ない橋を渡る必要はない。長く稼ぐならば捕まらないこと。安全第一だと心得ている。


 大陸中を縦断して仕事をして来た彼ら。至るところに仲間や協力者が散らばっており、大半の人間は普段は別の様々な仕事についている。


 協力者は文字通りちょっとした仕事や情報伝達、物品の調達などを請け負ってくれる者たちだ。その土地に住まう人間が多い。


 主要な仲間は次のターゲットとなる土地に移住という形をとる者。故郷に住まい、時折出稼ぎをするテイで仕事をする者などだ。


 誰にでも出来そうなことや、簡単な盗みの実行犯や運び屋など足が付きそうなものはチンピラやゴロツキ崩れの連中に声をかけて金を掴ませ、後腐れなく仕事を熟すこともある。


(何故バレたのか……ジジイがバラしたのか)


 初めは平和ボケをしていると聞いていたエストラヴィーユ王国であるが、最近勢力を増していた盗賊団、スワロー商会が王太子付き騎士団によって捕らえられたと聞く。


 流石に王太子が国内を巡回して歩くなんてことはないであろうから、息のかかった誰かが各地の実情を探っているのであろうと考えていた。


(さっきの奴らがそうだろう。かなり鍛えこまれているように見えたが……噂に聞いていたよりも抜け目ないようだな)


 ここ数か月の動きを聞いて嫌な予感がし、先に金の半分は持ってディバイン地方に向かわせてある。用心しておいて良かったと心底思う。

 完成した型も幾つかは既にディバインに向けて移動中だ。


 検問はあくまでヴィオレント川とフォルトゥナ領の中だけであろう。出来れば検問が広がる前にフォルトゥナを出るか、無理そうなら検問が解除されてからフォルトゥナを出ればいい。


(無理はしないことだ。焦りは失敗しか生み出さない)


 彫師もたとえ助かったところで先はない。たとえ脅されたとしても実際に国宝を傷つけ盗んだことに加え、金貨偽造に関わった大罪だ。公に知れれば極刑となることであろう。

 まんまと逃げおおせたなら過去の罪をばらすと脅して仕事を手伝わせればいい。


 男は進路を南西方向に取り、丘陵地帯を横断することにした。そして王都のあるオステン領を突っ切って、仲間と落ち合うべくディバイン領に向かうことにした。


******

 

 爆破された工房は自警団と共に消火し、鎮火に至った。


 コリンと彫師に話を聞けば、犯罪集団の親玉らしき男は奥の部屋に行ったきりだという。他にも数名の男たちがいたそうであるが、勿論それらしき人物たちの亡骸は見当たらず、騒ぎに乗じて逃げおおせたのであろう。


「暖炉周辺が損傷が激しいな。ここに爆弾を仕掛けたのであろう」


 未だ煙がくすぶる工房で、アンソニーが検分している。暖炉は石材が崩れ滅茶苦茶になっており、炉床ろしょうは大きくえぐれ、崩れた石材が転がっていた。


 爆発の規模としてはそこまで大きくはない。工房がすべて吹っ飛んだわけでもなければ、大きな火災になることも無かったのであるから。


 不幸中の幸いと言えばそうなのだが。


「…………」

 まだ熱い石材をアンソニーが緑の瞳を眇めて見つめる。


「……多分、外に繋がってるのかも」

 同じように見つめていたアマンダが呟いた。


「ふたりを生かしておいたのは確実に逃げるためか」

 アンソニーが苦々し気に言葉を吐く。


「爆発すれば、どうしたって一瞬そちらに気を取られる。子どもの泣き声がすれば救出に動くし、周囲の人の安全確保などに尽力すると踏んでのこと、かな」


 自分達が巻き込まれない程度の爆発。逃げるために一時的に視線を遮れればいい。出て来るところさえ見つからなければ混乱に乗じて逃げればいいだけ。

 火災もある程度の距離を稼ぐまで燃えていればいいのだ。


(本当に、用意周到だ)


「公爵に犯罪集団の情報を開示して、協力者や抜け道の調査と範囲を広げ、検問を対応してもらうことにしよう。周辺領にも気をつけてもらった方がいい。……国宝の件に関しては、暫くの間公爵はじめ各方面には伏せて置いて欲しい」


 アマンダはアンソニーと、同じく工房の中を検分していたカルロたちに目配せした。


「…………。解った」

 言いたいことを呑み込んで、アンソニーは頷いた。


「御意」

 騎士たちは礼をとる。


「検問に引っ掛かればいいけど、多分そんな連中じゃないだろうし……」


 とはいえ、計画は中途半端に頓挫したと言えるだろう。アマンダは燃え残った型の残骸を見つめる。


「念のためにサウザンリーフとオステン、ディバインの各港を押えるか?」

「ひとつの手ではあるけど、あまりにも広大過ぎる。今まで逃げおおせたのなら、用心深い反面どこか驕りもあるはず。……多分だけど、失敗したままでは終わらないはずじゃあないかな」


 様々な犯罪を行う犯罪集団であるなら、他にも犯罪を行う可能性があるだろう。


(もしくは現在進行形で別の犯罪が行われているかもしれない)


「複数の人間が絡んでいるらしい。ここ最近、なにか引っ掛かる事件が多発してないか確認して欲しい」

「了解した」


 アンソニーは大きく頷くと、役目を果たす為に燃え残った工房を出て行く。


「今は逃げたと思っても、絶対に逃がさないよ」

 アマンダが小さく呟いた。


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