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29 爆発

 彫師によって齎された情報により、工房はすぐに割り出すことが出来た。

 街のメインからは少し外れたところにある職人街。

 近くには客などの出入りの多い鍛冶工房もあるが、教えられた工房は鋳型に特化した工房であり、その扉は固く閉ざされていた。


 アマンダたちが今いる場所は、そういった工房が多い場所で知られている。


「安易に覗くことが出来ないから、秘密裏に作業し易いって訳だ」

 アマンダの言葉にアンソニーが頷いた。


「人の気配もありますね……煙が出ているんで、作業中のようですし?」

「道に迷った振りとか、適当に何かを聞いて中を確認してみようか」


 確実に人がいるというジェイの言葉に、カルロが様子を見に行くか聞いている。


「いや、多分気づかれる。あちこちで犯罪を重ねながら今の今まで足が付かなかった連中だ。……驚くほど鼻が利くはずだ」


 アンソニーの意見を聞いたジェイが頷いて肯定する。立場も仕事も違うものの、隠密を生業にする彼にも解る感覚なのであろう。


「なら、一気に踏み込む一択ね」

「……可能なら、周囲をいろいろと確認しておきたかったですねぇ……?」

 ぼやくジェイにセレスティーヌが小さく首を傾げる。


「何か気になることがあるんですか?」

「いや……今までおめおめと逃げおおせたのは、アンソニー様が言うように鼻が利くに加えて、用意周到だからだと思うんですよね?」


 ジェイの言葉を、全員が心の中で反芻する。

 人質、それも小さな子どもが捕らえられていると考えられるため、出来得る限り安全に事を運びたいというのが全員の考えであった。


 裏口や二階、窓などから逃げようとしても対応出来るよう、四方ぞれぞれを固めることに話し合った。しかし、ジェイは何かが引っ掛かるのであろうか。


 それこそ、何か感じることがあるのだろう。


「……気になるなら確認する?」

 アマンダは歯切れの悪いジェイに確認をするが、横へ首を振った。


「何処から見ているか解りませんから、却って気づかれますんで?」

 わかったと言ってそれぞれの位置につこうとした時だ。


(何だか焦げ臭い……?)


 セレスティーヌの鼻先に、周囲とは違う匂いを感じたようで首を傾げる。

 周囲に火を扱う工房が多いため、何かが燃える匂いはそこいら中に漂っていると言っていい。


『うきゅきゅ?』


 しっかりと抱きかかえたキャロがいつもと違う緊張を感じとったのか、小さく鳴きながら小首を傾げた。


 どう考えても戦力外でしかないだろうセレスティーヌとキャロであるが、どこかで待機をしているべきか散々迷った。

 他の者も心配していたものの、サウザンリーフで散々泥粘土を投げる姿を見ていたため、一緒に行っても問題ないだろうという結論に至った。


 それよりも様々な場所に協力者や仲間のいる犯罪集団が絡んでいるため、単独で待機をしている際に攫われるかもしれないという心配の方が大きかったのである。


「大丈夫? ふたりとも怖くない?」


 アマンダが凛々しい眉をハの字にした時、小さな爆発音とともに窓が割れ、炎が噴き出した。


「!!」


 咄嗟にセレスティーヌとキャロを守るように抱きかかえながら、周囲を見渡す。

 爆発音を聞きつけた周囲の人々が、工房や住居の中から飛び出してくるのが見えた。


「なんだなんだ!?」

「火事だ!」


 叫ぶ街の人々が野次馬のように集まってくる。


(やられた!)


 アマンダは急いでジェイに視線を送ると、頷いて周囲を見遣った。どさくさに紛れて逃げて行ったり、おかしな行動を取る人間がいないか確認するためだ。


 騎士達は急いで燃え盛る工房に近づいて、中の様子を確認すべく扉を壊そうとしているが、勢いを増して行く炎になかなか近づけないでいる。


「誰か、自警団に知らせて来い!」

「わかった!」


 周りに燃え広がらないように早く火を消す必要がある。誰かの呼びかけに、何人かの人間が走って行く。


「水だ! 水!!」

 家の中の水瓶を持っては家にかける人、井戸に走る人と周りが入り乱れる。


「……クソッ!」

 アマンダが珍しく低く呻く。


 多分だが、アマンダたちがアジトである工房に踏み込もうとしているのを知って、逃げるために仕掛けたのだと思ったからだ。どう考えてもタイミングが良過ぎる。


 周囲は大勢の人でごった返していた。様々に動き回る人が多く、逃げていく人間なのか助けを呼びに行こうとしている人間なのか、水を入れるものを取りに行こうと走る人間なのか判別がつかない。


 セレスティーヌはアマンダの腕の中で、微かな声を聞く。それはキャロも同じだったようで、小さな身体がピクリと反応した。


「子どもの声が……! 中に子どもが!」

「なっ……!」


 セレスティーヌの叫び声に、アマンダは聞き耳を立てる。

 確かに、小さく泣くような声が聞こえた。


「セレ、ここで待ってて」


 真剣なアマンダの表情に、セレスティーヌは黙ったまま何度も頷く。

 何かないかと見回すと、近所の軒先にあったらしい丸太を利用した長椅子を抱えたジェイとアンソニーが、工房に向かって走って行く。


「アマデウス! カルロ!」


 声を張り上げるアンソニーにアマンダとカルロが頷いた。

 少しでも火を消そうと水をかける近所の人から水を譲って貰い身体にかける。


「殿……アマデウス様は危険ですので待機を!」

「そんなこと言っている場合か!」


 いつもの女性を真似たような声ではなく、低い声で制止する騎士に返す。

 そしてそのまま扉を丸太の椅子で突き壊そうとするふたりに加わって、勢いよく扉に突進した。


 けたたましい音と共に扉が壊れ大量の煙が外へ向かって流れ出る。

 腕で口元を覆うと、騎士達とアマンダが工房の中へと入って行く。


 ジェイとアンソニーが丸太の椅子を放り投げると、同じように水を被っては後へと続いた。

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