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26 合流・後編

「……狼煙が上がっているな」

 ひとりの騎士が、細く立ち上る煙に気づいてそう言った。


「あれって狼煙なのか?」


 ただ単に焚火ではないのかと騎士の一人が首を捻る。

 そう遠くない場所に、それなら早く合流できそうだとホッとした。


「まあ、その可能もあるが……今の状況下において、隠密のジェイ辺りが居場所を教えるために火を起こしているんじゃないかなぁ?」

 カルロが付け加える。


 アマデウスの諜報部員兼護衛であるジェイは、彼らが子どもの頃からの付き合いである。元気過ぎる三人がピクニックとかハイキングとかいう名の行軍に出掛け、案の定ちりじりになった時、集合場所を知らせるためによく狼煙をあげていたのだ。


 姿が見えなくなり、焦って半泣きになりながら戻ると、甘いマシュマロの浮かんだココアだったり、腹ペコの時には具だくさんのスープだったりを用意して、高位貴族の割にわんぱくな子ども達を迎え入れてくれるのだった。


 ……すっかり元気になった頃、勝手に離れると危険だとかなんだとか、立場上お説教を垂れるのだが、気の良いジェイはため息をつきながらも毎回付き合ってくれたことを思い起こす。


「ふふふ」

 思わず小さく思い出し笑いするカルロに気づいたのか気づかないのか、他の騎士達が狼煙を見て頷いた。


「なるほどな」 

「一理ある」



 選抜隊の四名が狼煙の方へ向かって進む中、ひとりがふと思い出したように口を開いた。


「……殿下は、まさか未だにあの格好なのだろうか?」

 他の三人が何とも言えない表情で顔を見合わせた。


「……いい加減似合っていないという現実を直視して、取り敢えずは男の格好をしていて欲しい」


 うんうんと三人が同意する。


「もうちょっと西寄りなら山賊がいるだろうから、見た目からいってそっちの仮装をしている方がずっとマシだと思う」


 うんうんと三人が再度同意した。


「…………」

 みんなの切なる願いを聞きながら、ここでもカルロは押し黙る。


(前回会った時は吹っ切ったっぽかったけどなあ……)


 それよりもである。

 一緒に旅をしているセレスティーヌには流石に身の上を語っているのだろうかと脳裏を掠めた。


(…………まさか、流石に話しているよな……?)


 しかし、初対面が(多分)あの格好である。

 せめて平民男性の恰好であるとか、それこそ山賊や海賊の格好であるならまだしも……正体を明かすにも、ハードルが高すぎる気がするのは気のせいだろうか。


 選抜隊の四名はそれぞれに何とも言えない表情をしながら、狼煙のたなびく方向へと馬を走らせたのであった。

 


 ******


 ガサゴソと葉を揺らす音がする。ついでにパカポコと蹄の音もする。


「来たみたいだな」

「やっと来たわね」


 アンソニーが綺麗な顔に全く似つかわしくない鳥の串焼きを頬張っていた。似つかわしくはないものの流石イケメン。肉を頬張る姿も大変様になっていて、もうイケメンは何をやっても格好いいのだなと感心するセレスティーヌであった。


 その隣で、これまた鳥の串焼きが非常に似合うアマンダが同じように頬張っていた。


 こちらはこちらでピンクのドレスに金の巻き毛という、おおよそ鳥の串焼きとは相反する出で立ちであるのだが、ワイルドに肉を齧る姿がぴったり以外の何モノでもないと再認識するセレスティーヌであった。


 間もなく合流するであろう選抜隊を待っていた面々であるが、腹が減ったと言ってはその辺にある小石を投げて素早く鳥を狩り、あっという間にした処理をし、たき火で焼いた鳥肉を頬張りながら選抜隊を待っていた。


 同じように、香辛料の効いた鳥の串焼きを小さな口でモグモグと食べるセレスティーヌであるが。


(……アマンダ様もフォレット様も、高位貴族のご子息でいらっしゃるのよね……?)


 根っからの低位貴族である自分の父よりも、余程逞しいと思うのは気のせいだろうか。



「肉の焼ける匂いだ!」

「そう言えば腹が減ったな」


 話し声が段々近付いてくる。そして茂みに中から顔を出したのは、サウザンリーフ領でも見た顔ぶれであった。

 四つの顔が茂みから出た途端、鶏肉を頬張るセレスティーヌ達と目が合う。


「おお! カルロの言う通りだな」

「やはり」


 納得するふたりの横……いや、下で、別の騎士はアンソニーを見て顔色を悪くし。またある者はサウザンリーフと然程変わらない……防寒着が増えただけのアマンダを見て、絶望以外の何ものでもない表情をした。


「…………」

 四者四様の心情を知ってか知らずか、ジェイはにっこりと笑いながら火の側を指差した。


「さ、皆さん揃いましたね? 取り敢えず腹ごしらえして作戦会議と行きましょうか?……まずは手を洗いましょうか?」


 四人の騎士はくぅ、という腹の虫を鳴らしながら、おずおずと頷いたのであった。

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