26 合流・前編
「あそこにいらっしゃるの、フォレット様じゃありませんか?」
ふたりと一匹で街道を行けば、左右に枝分かれする未知の手前で馬を引いた男が立っていた。道の脇に立つ木に凭れ掛かり、腕を組んで目を閉じている。
セレスティーヌの声に見遣れば、アマンダは幼馴染兼側近のひとりを視界に捉える。
「…………本当ね」
手綱を手に腕を組み、目を閉じて木に凭れ掛かるってどんな状況なんだよと思いながらも、それだけで絵になる男に妙に感心する。
今もアンソニーの前を通る女性たちに、きゃあきゃあ言われながら指をさされている。老いも若きも、女性には大人気である。
「……何だか大変そうですねぇ」
「……確かにねぇ」
(アイツを見てそういうこと言うのって、セレだけだと思うわ)
『キュキュキュ!』
「?」
アンソニーも気づいたようで、ふたりと一匹の方へ顔を向けた。
「やっと来たな」
涼し気な表情のまま口を開く。
「きゃ~っ! 声も素敵ね」
「バリトンよ、バリトンッ!」
「「「…………」」」
再び道のあちことから『きゃ~♡』と黄色い声が飛んで来て、三人と一匹は神妙に顔を見合わせた。
「なぜ徒歩で移動をしている?」
微かに眉を顰めるアンソニーに、老人を捜しながら進んでいることを説明した。
「うむ……。しかし先へ進んでいるのではないか?」
「まあその可能性も否めないけど。なるべく可能性を潰さない方向で進んでいるだけよ」
セレスティーヌとキャロは頭上を越えて行われる会話を目視するかのように、揃って右に左に視線を動かしている。
万が一何かあった場合に危険が少ないようにと、真ん中に挟まれているのだ。
……普通アマンダを守るために、アンソニーと自分で警護するのではないかと思いながらも、どう考えても自分にアマンダもアンソニーも守れるとは思えず、大人しく挟まれることにしたのだった。
「そっちは?」
「質屋に持ち込まれた金属塊は予想通りだな。中央へ送って詳しく調べてもらっている。彫師の老人が噛んでいることは間違いないだろうが、孫を人質に脅された可能性が高い。先の住所には選抜隊を派遣するようにも依頼済みだが……公爵へ協力を依頼するか?」
「よもや公爵が絡んでいることはないと思うけど」
アマンダの言葉にアンソニーが頷く。
「公爵は経営に関して誰よりも実直な人柄だ。こういう方法は好まん」
「……まあそうよね。正々堂々、自由自在に増やすことが出来る人だもんね」
『うきゅ!』
大人しくセレスティーヌに抱えられていたキャロが声をあげ、ひげをヒクヒクと動かす。キャロの視線の先を見れば、ヘラヘラと笑いながら歩いてくるジェイの姿があった。
「おやおや、皆さんお揃いで?」
ジェイは三人に目配せすると、街道をすこし外れた川縁に移動する。
「相変わらず仲良しですね?」
「「仲良しじゃない!」」
揶揄うようにアマンダとアンソニーを見る。ふたりは揃って嫌そうな表情をしては口を揃えた。
ジェイは慣れた手つきで石を積み簡易的なかまどを作る。背負っていた袋を地面に置くと、中から細い枯れ枝を取り出した。
アマンダは鍋を、アンソニーはゴブレットを川の水で洗っている。慣れた様子から、こうやって外で食事をするのも初めてではないのだろう。
「私も何かお手伝いを……」
王太子(仮)と高位貴族が揃いも揃って水仕事をしているというのに、低位貴族の自分がただただ座っていることに居たたまれず声をかける。
「川の水はまだ冷たいですから、野郎どもにやらせておけばいいですよ?」
「「…………」」
ふたりは恨めしそうな顔でジェイを見た。別段セレスティーヌに辛い思いをさせようとは思わないものの……
(言い方!)
地面に降ろされたキャロはおやつを貰おうと、元気にジェイのところに走って行く。
「キャロさんにはこれですね?」
ポケットからドライフルーツを出すと、小さな皿の上に幾つか載せてやる。キャロはセレスティーヌとアマンダの顔を交互に伺うと、クンクンと匂いを嗅いでから手に持った。
水を沸かしてお茶を淹れれば、やっと人心地ついた。
温かいお茶を飲んで、四人はほっこりと息をつく。
「一行はこのヴィオレント川の支流を使って移動したようですよ? いただいた住所のまあまあ近くまで行けますからね?」
「目撃者がいたのか」
アンソニーの問いかけに頷きながら、幾つかの資料を地面の上に並べる。
「一見繋がりがないんですが、裏で繋がってるみたいですね?」
「……また犯罪集団か」
国の安定を図る役割の人間からすればため息ものであろう。
「スワロー商会とは違って、ガチもんの犯罪集団ですけどねぇ?」
ジェイの言葉に、アマンダとアンソニーが一段と嫌な顔をした。
「他国で荒らしまわっていたみたいですけどね? 足が付きそうになったのか、最近エストラヴィーユ王国にも手を伸ばして来たみたいで、未だ捜査線にあがってきてなかったんですねぇ?」
「道理で手慣れているわけだ」
「拠点は敢えて持たず、下っ端は金で雇って後腐れなく詐欺から荒っぽいことまで何でもするような奴らみたいですね?」
三人と一匹は、何とも言えない顔をしてジェイの顔を見た。
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