25 選抜隊
「今回はフォルトゥナ領かぁ。まして南東部で、王都からまあまあ近いから良かったよね」
遠いとその行き来だけでもなかなかである。
特に行きは急ぐこと必須なため、あまりにも遠くや険しい道のりであると大変である。
とはいえ今回アンソニーは既に出払っており同行しないので、無理なスケジュールで煽り立てられることはないことも救いだ。
「一体、殿下は何をやっておられるのかなー?」
「まあ、あっちこちで世直しの旅的なものをしているのかもしれんなぁ」
「……お血筋かねぇ?」
かつて国内どころか大陸中を『平民の豪商のご隠居』に扮して諸国漫遊の世直し旅をしていたという、ローゼブルク前々公爵を思い浮かべてはそれぞれに首を傾げた。
そしてひとりが思いついたかのように、数か月前に見た信じられない主兼上司の姿を思い出していた。
「それってつまり、あのおかしな格好も世を欺き身を隠すため……ってコト!?」
「「「「…………」」」」
言った人間まで顔を押し黙っては顔を見合わせた。
(ありえん)
一層、見間違いか勘違いか、はたまた夢か幻であってくれたならどれ程良かっただろう……生憎一度見たら忘れられない強烈な破壊力で、脳裏――短期記憶どころか長期記憶にも刻まれ過ぎるほどに刻み込まれていた。
金の巻き毛にピンクのフリフリなドレスを着て、かつピエロのような化粧をした、厳つい闘士のような筋肉の塊(主兼上司=自国の王太子)を思い出した。
思わず思い出してしまい、全員でシンナリとする。
魔獣を見るよりもビックリした……というより、あれはもう質の悪い魔獣の一種であろうと思う。
何がどう転んでも逆効果でしかなく、世の中に決して出してはいけない類のものであろうと思う。
「……全然隠れんだろう!」
「却って目立ち過ぎるだろう!」
何処に隠れるというのか。主張しかないと断言する。
「トラウマ……」
ひとりが、しょんぼりげんなり、かつゲッソリした表情で呟く。
(確かに)
全員が心の中で同意する。
「…………」
ただ一人、カルロだけは理由を知るというか、なんなら己が理由であり原因そのものであったりするので、何とも言えずに無言を貫いた。
王太子付き騎士団の精鋭数名が選別され分隊を組み、任務にあたることになった。
更にヴィオレント川の下流を目指す者たちと、上流……と言っても実際は中流ほどの場所にある、フォルトゥナ領の南東部を目指す者たち二班に分かれた。
カルロ含む四名は、フォルトゥナ領南東部のとある町を目指して北上中である。
「でも今回、ちっちゃい野ウサギみたいなご令嬢と一緒に各地で素晴らしい仕事ぶりであるらしいからな」
この数か月でふたり(とおかしな隠密)が行った、捕縛やら商売の立ち上げやらを指折る。そして今回の国宝に関する一件だ。
ひとりがそう言うと、もうひとりが眉を顰めた。
「『野ウサギ』ではなく『ヤマネ』だろう?」
もうひとりが首を振って訂正する。
「いや、金魚ではないか」
「……魚類……!?」
確かに小さいは小さいが……そして水に揺れる赤いヒレが優雅で愛らしくもあるが……
全員が愛らしいがどこかユーモラスに泳ぐ金魚を連想しては、それぞれに首を傾げた。
(魚類?)
カルロは美しく長い黒髪に、淡く光るような銀の瞳の少女を思い出して首を捻った。
どうしたって隣にちらつく、厳つい幼馴染の女装姿と華奢なセレスティーヌの対比が酷い。
(金魚……黒……。出目金??)
「…………」
もちろん可愛らしいが口に出してはいけない気がして、カルロはキュッと口に力を込めた。
「……先を急ごうぜ」
「そうしよう」
「何なら走って行こう」
「丁度いい。余計なことは考えない方がいい」
剣と戦いはいざ知らず、女性に関してはポンコツ揃いの面々である。