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004 遭遇

 


 洞窟から出た私は、その圧倒的な光景に身震いを覚えた。


 青く澄み渡った空。

 辺り一面を覆う草原。

 暖かい日差し、心地よい風。


 最初の生存競争に勝った私たちへの、神様からのご褒美なんじゃないかと思った。

 私は両手を天に捧げ、緑の匂いを胸一杯に吸い込んだ。


 最高じゃない!





 集団の中で、私は比較的後方にいた。

 多分それは前世と同じく、お寝坊さんだったことが原因だろう。

 でもおかげで、兄弟たちを一望することが出来た。

 ざっと見積もって、50人ぐらいかな。

 そしてそれと同じぐらいの(むくろ)を、洞窟内で見ている。

 と言うことは今回の競争率、2倍ってところだったのかな。

 二人に一人は死んだんだ。


 なんてことだろうね、全く。


 前の世界では考えられないことだよ。

 でもまあ、生きててよかった。

 この光景を見れてよかった。

 そう思った。


「ホロロロロロロッ」


 嬉しくて上げた声に驚いた。

 少し高音の、透き通るような音色。

 これが今の声なんだ。

 私の声に呼応して、兄弟たちも喜びの声を上げる。


「ホロロロロロロッ」

「ホロロロロロロッ」


 草原は、さながら合唱会のようだった。

 生まれてきたことを喜ぶ。

 まだ生きていることを喜ぶ。

 大自然に感謝し、その場にいることを喜び合う。

 それが嬉しくて、幸せで。

 私も更に声を上げた。

 歌った。




「ピイイイイイイッ!」




 穏やかな声を切り裂くように、突如上がった声。

 誰に教えられた訳でもない。でもすぐに理解した。

 これは警告音。

 危険が迫っていることを、仲間に知らせる声だ。


 その声は前方からしていた。

 少しずつ広がっていく警告音。

 そしてそれはいつしか、断末魔の叫びと化していった。

 何? 何が起こっているの?

 動揺する私も、後ろの兄弟に届けとばかりに警告音を発した。


「ピイイイイイイッ! ピイイイイイイッ!」


 響く地鳴り。

 兄弟たちを覆う巨大な影。

 その影の主が現れると同時に、辺りに鮮血が飛び散った。


 な……何なの、あれ……


 そこにいたのは、私たちの倍ほどの背丈のある、異形の者だった。

 逆光でよく見えないけど、彼らが手を振り下ろすたびに、辺りに鮮血が飛び散っていた。

 兄弟たちが、必死に逃げ惑う。

 反撃なんて考えるまでもないほど、力の差は歴然としていた。


 私たちに出来るのは、逃げることだけ。


 絶叫、悲鳴にも聞こえる警告音を発しながら、私たちは走った。

 他の兄弟に構ってる暇なんてない。

 助けられる訳もない。

 生まれたばかりで、戦う(すべ)も何も知らないんだ。

 彼らが屈強な大人だとしたら、私たちは保育園児に等しい。

 大人が園児たちの中に入って暴れてるんだ。勝てる訳がない。

 しかも彼らの腕は、鋭利な刃物状になっていた。

 ひと振りするだけで、兄弟の体が切り裂かれていく。

 私は逃げた。

 どこに逃げればいいのか、そんなことは分からない。

 でも、それでも。

 ここから逃げなくてはいけない。

 折角こんな美しい景色を見れたのに。

 たくさんの兄弟たちを犠牲にして、ここまで成長出来たのに。

 こんなところで死ぬ訳にはいかない。


 途中、足がもつれて倒れる兄弟もいた。

 でも私は、脇目もふらずに走った。

 彼が襲われている間に、私は逃げられる。

 非情だと思った。残酷だと思った。無慈悲だと思った。

 でも、それでも。

 今はそれしかないんだ。

 死にたくなければ走るしかない、そう思った。




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