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002 ミサキ

 


「お母さん、いつもありがとう」


「素敵なカーネーションね。ありがとう、ミサキ」


「嬉しい?」


「ええ、とっても。本当にミサキは、優しくていい子ね」


「えへへへへ」





「ミサキ、そろそろ起きないと遅刻するわよ」


「あと5分……」


「いつもそう言って、30分は起きないじゃない。今日は日直って言ってたでしょ。ほら、早く顔、洗ってきなさい」


「ううっ……お母さんが鬼に見える……」





「本当に大学、行かなくていいの?」


「いいの。いつまでも遊んでばっかいられないよ。それより早く働いて、お母さんに楽してもらいたいんだから」


「子供がそんなこと、気にしなくていいんだって。私はミサキの母さんなんだし、ミサキのしたいこと、全力で応援するから」


「お母さんは一人で私を育ててくれた。昼も夜も働いて、頑張ってくれた。だからこれからは、私がお母さんの為に頑張りたいの。私の夢は、お母さんとずっと一緒にいることなんだから」





「お母さん。どうして私に『ミサキ』って付けたの?」


「『岬めぐり』って昔の歌があるんだけど、お父さんが好きでね、いつの間にか母さんも好きになってたの。よく二人で歌ったわ」


「……懐メロだったんだ、私の名前って」


「もし二人目が出来たら『メグリ』って付けようって言ってたのよ」


「……二人合わせて歌のタイトルって。安直すぎない?」


「まあでも、そうなる前にお父さん、よそで女作って出て行ったんだけどね」


「……オチまで酷いんだね」





「どう? 体の具合は」


「お母さん……仕事はいいの?」


「今日は早めに終われたから。と言うか、病人が変な気を使わないの」


「えへへへ、ごめんなさい。ありがとう」


「今日は少し、顔色いいみたいね」


「……本当に治るのかな、私」


「何言ってるの。そんなんじゃ、治るものも治らないわよ。笑顔笑顔」


「そうなんだけど」


「しっかり休めば大丈夫。先生だってそう言ってたでしょ?」


「ごめんね、母さん……本当なら、もう働いてた筈なのに」


「だから気にしないでって言ってるのに。ほら、駅前のプリン、買ってきたわよ」


「お母さんの分も?」


「勿論」


「じゃあ、一緒に食べよ」






「……ミサキ、ミサキ」


「お母……さん……ごめん、ごめんね……」


「ミサキが謝ることじゃない。母さんこそ、ミサキに謝らないと」


「……お母さん……泣かないで……」


「丈夫な体に産んであげられなくて、本当にごめんなさい……」


「そんなことない……私、お母さんの娘で幸せだった……」


「ミサキ……」


「これからも、ずっと一緒にいたかった……いっぱい親孝行、したかった……」


「いいの、いいのよミサキ……母さんも幸せだった……」


「お母さん、大好きだよ……」


「ミサキ……愛してるわ……」






 ……何だか、ものすごく濃い夢を見ていたみたい。

 でもおかげで、今の状況が少し分かった。


 私はミサキ。

 お母さんと二人暮らしだった私は、高校3年の夏、学校で倒れた。

 病名は思い出せないけど、かなりやばい状態だった。

 そのまま入院。

 卒業したら就職して、お母さんと楽しく過ごす予定だったのに。

 全部なくなってしまった。

 卒業式にも出られないまま、入院生活が続いて。

 そして。

 お母さんが見守る中、私は永遠の眠りについた。

 なんて残酷な運命なんだろう。

 これからやっと、親孝行出来ると思ってたのに。


 結局私は、哀しみだけをお母さんに背負わせて、一人旅立ってしまった。

 お母さん、泣いてたな。

 握ってくれた手、震えてたな。

 でも、温かかった。

 お母さんが最後に、私にくれた言葉。


「愛してるわ」


 目覚める時に聞こえた声は、きっとあの時の記憶だったんだ。





 そして私は目覚めた。

 お母さんの声で。

 これって俗に言う、転生になるのかな。

 前の記憶がどうして残ってるのか、私には分からない。

 死んでから神様に会った、ってこともなかったみたいだし。

 でも私は夢を通じて、自分がミサキだと思い出した。

 時々頭の中に、「ゾンビ映画」だとか「鏡」だとかが浮かんだのは、前世の記憶の断片だったんだ。


 でも。




 異世界って、もっと夢のあるものだと思ってたのに。

 よりによって芋虫?

 これって、転生って言うより罰ゲームなんじゃない?

 これでも私、18歳の女の子だったんだよ?




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