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013 洞窟

 


 飛べなくなった私を抱いて、メグリは旅を続けた。


 いくら私が軽いと言っても、メグリの負担は大きい。

 でもメグリは嫌な顔ひとつせず、笑顔で私を見つめてくれた。

 何度も何度も謝った。


 こんな足手まとい、捨ててくれてもいいんだよ?


 そう言って泣いた。

 メグリは微笑み、優しく抱きしめてくれた。




 メグリの負担はそれだけじゃない。

 獲物を見つけると、私を安全な場所に下ろして狩りをしてくれた。

 彼の為に何も出来ない私。

 負担にしかなってない私。

 それなのにご馳走を前にすると、私はタガが外れたようにむさぼった。

 食べても食べても満たされない。

 止まらなかった。

 食べ終わると、メグリはまた狩りに向かっていった。

 私が満足するまで、何度でも狩りを続けてくれた。

 そしてある時気付いた。

 彼がほとんど、獲物を口にしてないことに。


 ――メグリ、全然食べてないんじゃない?――


 ――そんなことないよ。狩りに出てる時、ちゃんと食べてるからーー


 ――嘘よ。だってメグリから獲物の匂い、しないじゃないーー


 ーー本当、大丈夫だから。それにね、最近あまり食欲がないんだ。それより獲物を狩ってる方が楽しいって言うかーー


 ーー無理してない?――


 ーー大丈夫――


 ーーほんとに?――


 ーー本当だよ。それにもし()せ我慢だったら、ミサキを抱いて飛べないだろ?――


 言いくるめられてる気がした。

 でもメグリは、本心だって顔で言ってくれる。

 申し訳ないと思いつつも、今は彼の優しさに甘えるしかなかった。

 元気が戻ったら、私の全てを使ってお返ししよう、そう思った。





 ある日、尻尾に激痛が走った。

 見ると少し、膨らんでいた。


 ーー大丈夫?――


 ーーう、うん……ちょっと痛いけど、我慢出来ないほどじゃないよーー


 ーー急がないといけないねーー


 メグリはそう言って、厚い雲が広がる冬の空を見つめた。





 ようやく辿り着いたのは、私が生まれた場所に似た洞窟だった。

 私にもメグリにも、妙な確信があった。

 この洞窟こそが、私たちの探していた場所なんだと。


 それなら最初から、生まれた場所に行けばよかった、そんな思いがよぎった。

 でも、どうしてだろう。新しい場所じゃなきゃ駄目だと、誰かに諭されているような気持ちになった。

 それはメグリも同じようだった。


 葉を敷きつめ、寝床を作ってくれたメグリは、そこに私を寝かせてくれた。

 ほっとした。

 少しずつ膨らんでいた尻尾は、かなりの大きさになっていた。


 重くてバランスが取りにくい。

 何でこんな物がついてるんだろう。

 これがなければ、メグリに負担をかけずに済んだのに。

 いっそのこと、切ってしまおうか。

 長い旅の道中、何度もそんな思いにかられた。

 でも今。

 この為に私たちは頑張ったんだ、そう思った。


 薄緑色をした尻尾は、風船のように膨らんでいる。

 透き通って見えるその中には、無数の丸い物があった。


 卵だ。


 私とメグリが授かった、新しい命。

 そう思った時、倦怠感の理由が分かった。


 そうか。私、妊娠してたんだ。

 私、お母さんになるんだ。


 尻尾をメグリが優しく撫でる。


 ーー頑張ったね、ミサキ。僕たちの子供、楽しみだねーー


 その言葉に肩が震えた。

 涙が溢れてきた。

 長かった旅の目的。

 それは、私とメグリの愛の結晶を守ることだったんだ。

 私はメグリに寄り添い、泣いた。

 メグリは私を抱きしめ、そして優しく頭を撫でてくれた。




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