012 契り
ついに出会えた仲間。
私もメグリも、この奇跡に感謝した。
長かった孤独な旅が今、終わったんだ。
私たちは旅に出た。
行く当ても、目的もない旅。
でもそこに、喜びがあった。
メグリはとても優しかった。
一人で狩りをして、私に食事を与えてくれた。
別にいいよ、私も狩るよと言ったのだが、「これからは、ミサキの為に僕が狩る。代わりにミサキは、僕の為に歌ってほしい」そう言ってくれた。
メグリの狩りの腕前は確かだった。それに美味しい獲物をよく知っていて、私は本当に満足だった。
前の世界でも、私は男子と付き合ったことがない。告白されたことはあったけど、別に興味もわかず断っていた。
でもメグリなら……そんなことを夢想し、赤面した。
気持ち悪いな、私。
メグリはとても紳士で、いつも私を守ってくれた。
そんな彼のことを好きになるのに、時間はかからなかった。
ある日の夜。
月明かりに照らされた湖畔で、私は水浴びをしていた。
メグリはいつもそんな時、周囲を警戒しながら、笑顔で見つめてくれていた。
でも、その日の彼は少し違っていた。
ゆっくりと湖に入って来るメグリ。
ついにこの時が来たんだと、胸が高鳴る。
恥ずかしいし、少し怖い。
でもそれよりも、喜びの方が勝っていた。
両手を広げ、「ホロロ」とメグリが鳴く。
私は羽根を広げ、メグリの歌声に重ねる。
風もない、静かな夜だった。
私たちは見つめ合った。
口づけを交わす。
メグリが私を抱きしめる。
私は歓喜に震えながら。
また歌った。
メグリの甘い囁きが、耳元をくすぐる。
ーー愛してるよ、ミサキーー
ーー私も……愛してる……メグリに会えてよかった……メグリに抱きしめられて今、本当に幸せーー
月明かりの下、私たちは体を重ね合った。
次の日から、私たちは新たな旅を始めた。
今までとは違う、目的のある旅。
でもそれが何なのか、よく分からなかった。
ただこの場所じゃない、ここじゃない。
そういった不思議な感覚が、心を支配していた。
体の不調を感じたのは、旅を始めて少しした頃だった。
うまく力が入らない。
倦怠感が強い、そんな感じだった。
思うように飛べず、メグリは何度も地上に降り、介抱してくれた。
私を見る目は、いつもと変わらない。
優しい眼差しで見つめ、笑顔を向けてくれる。
でもその瞳に、焦りが宿っている気がした。
やがて私は、自分の力で飛べなくなっていった。
あんなに自由に飛んでいたのに。
まるで風とひとつになったような、そんな爽快感があったのに。
今、体が鉛の様に重い。
その感覚に恐怖した。
覚えがあったから。
前世で入院してた時と同じだ。
ひょっとして私、また病気で死ぬの?
やっとメグリと出会えたのに、もうお別れなの?
神様は私に、また同じ呪いをかけるの?
お母さんだけじゃなく、今度はメグリにまで絶望を与えるの?
私は泣いた。
そんな私を優しく抱きしめ、メグリは笑ってくれた。囁いてくれた。
ーー大丈夫。心配ないよーー
ーーでも、でも……私、こんな風になっちゃった……もうメグリと飛べない……メグリと旅を続けられない……――
ーーミサキは僕が守ってみせる。何があっても、僕はミサキから離れたりしないよーー
ーーメグリ……メグリ……――
彼の腕の中で、私は泣いた。
力のない自分を呪った。
足手まといの、この体を呪った。
季節は冬になろうとしていた。