第7話 飼い猫ミリアはダルマになった。
「ミミ、まもる!!」
今日こそ、ミミは、やらせない。今日のミリアは一味違う。知力が4になったのだ。いつものミリアと思うなよ。ぎゃふんと言わせてやるからな。とミリアはそう思った。
★★★
『ほれ、数学の勉強じゃ、1+1はなんじゃ?』
「スリー!!」
『なぜ、英語で言うじゃ、しかも間違っておる。不思議じゃのう』
「うむ」
★★★
布団を頭からかぶり、だるまさんの姿になった。
今日は簀巻きじゃないから、逃げることもできる。
どうだ、すごいだろう。
まいったか?
「じぃ~!!」
ミリアはクライシスをじっと見る。ミリアは警戒しているのだ。これ以上、ミミをさわられるとたいへんなことになってしまう。おかしな感情があふれて、自分ではなくなってしまう。このまま我慢できなくなって……。
まさに鉄壁の陣をしいたミリアであった。
「もう、だいじょぶ、あんしん」
これでミミは、さわられない。きっと、だいじょぶ。
ミリアは安心した表情でぽわ~んとしている。
「ああ、僕のかわいいミリア。今のミリアはまるでダルマさんのようだね。さぁ、もふもふしてあげるから、君の可愛いネコミミを出しておくれ」
ネコミミの肌ざわり、あの感触を――
「ああ、なんて素晴らしいんだ」
忘れることなんてできるものか、そうクライシスは思った。
「だが、しかし!!」
彼の欲求は進化する。
ミミをさわるだけでいいのか?
いや、もっとさらなる高見を、お口でハムハムしてみたい。
だけど、あの肌ざわりを――。
ミリア――。
もう一度……僕に与えてくれないか?
ミリアが隠すネコミミへと……。
ゆっくりと……。
ゆっくりと……。
手を近づける。
「ミミ、だめ!!」
ミリアはダルマさんのようにコロンコロンと転がってクライシスから距離をとる。
あの目はする気だ。
ミミを……。
さわらせない。
させてなるものか!!
ミリアの意思は揺るがない。
クライシスからさらに距離をとり、警戒をはじめたのだ。
「さわる、だめ!!」
クライシスをジッと見つめるミリア――。
怒った表情でむぅーとした。
耳だけは断固としてさわらせない。
そんな強い意志を感じる。
「ミリア、そんな目で僕を見ないでくれ。僕は数々の強敵を倒し、強くなった。だからこそ、あきらめきれないんだ。絶対にだ!!」
魔王との最後の戦いでもはじめるのか、カッコいいセリフを決める勇者クライシス。
「むむむっ!!」
まけない、ミリアはそう思った。
「やらせてもらうよ、ミリア」
サイドステップし始めたクライシス。
僕は愛のため――
正義のため――
そして――
『すべてはネコミミのために』
戦う。
この思いは消せない。
それが勇者の使命だから。
『いやいや、勇者の使命って、それはだめじゃろう』
何人ものクライシスが残像となって増えていく。
「むむっ!!」
こ、こいつは、な、なにをするつもりだ。
ミリアに恐怖の波がおしよせてくる。
「『ミラージュステップ』、使うのは久しぶりだ。四天王をワンキルするために編み出したこの技を、さぁ、ミリア、覚悟するんだ!」
ミラージュステップ。
まず5人の残像が現れるまでサイドステップを行う。
それから状態維持魔法を詠唱することで完成させる必殺技だ。
クライシスが動けば残像も流れるように動きだす。
ミリアの注意をひく。
布団をはぎとる。
ネコミミ、もふもふ、ハムハム。
5人のクライシスが同時攻撃を行う、とっても恐ろしい技だ。
この勇者は力の使いどころを間違っている。
「にゃ、にゃ?!」
対して――
ミリアも負けない。
猫としての狩猟本能を開花させた。
目が猫目となり、獲物をとらえようと必死に目を輝かせる。
猫モードを発動したのだ。
だが、まったくこれぽっちも能力が上がっていない。
残念な猫であることに違いない。
「にゃん!! にゃん!!」
クライシスが、右へ動くたびに、ジッー。
さらに左へ動くたびにジッー。
ミリアは首を扇風機のようにふりふりしだしたのだ。
「こ、これはたまらない。なんて可愛さだ」
クライシスの動きがとまった。
「ぐっ、ぐっは!」
地面にはいつくばって吐血しはじめたクライシス。
必殺技の失敗によって、身体に大きな負担をかけてしまったのだ。
「み、みりあ、僕を殺すつもりなのかい?」
クライシスの鼻から血が出ている。
クライシスはさらに追加攻撃を受けたのだ。
ミリアの可愛すぎるしぐさに興奮を覚えたのだ。
身体をふらつかせるクライシス。
「はぁ、はぁ、まずい、早く、もふもふしないと、体のうずきが止まらない」
モフモフネコミミ症候群。
ミリアのネコミミをもふもふしないと気が狂ってしまう恐ろしい病気である。
クライシス限定なのだが。
「ミミ、ダメ、ゼッタイ!!」
『ふむ、おぬしも大変じゃのう』