第6話 飼い猫ミリアは簀巻きになった。
ミリアは死の間際、夢を見た。
そして、思いだしたのだ。
自分が男であったことを――
「わたし、おとこ、クラ、おことわり」
ミリアはうんしょ、うんしょと布団をかぶり、ぐるぐる転がって自ら簀巻きとなった。布団にしがみつき、顔だけだして、クライシスをジッと睨みつけた。
ミリアは完全防御に徹したのだ。これ以上、好き勝手にされてなるものか!!
断固として抗議する。
(くっ、なんだこれは、布団にじゃれてるミリア、なんて破壊力なんだ)
「ふっ、ミリア、君が熱をだしうなされていたときのことだ。汗をびっしょりかいてしまった君を見て、これはいけないと思ったんだ。このままではミリアが風邪をひいてしまう。だからドレスからパジャマに着替えさせてあげたんだ。そのときだ。君の身体を隅々まで、丁寧に満面なく、フキフキしてあげたんだ。勇者の誇りにかけて誓おう。君は立派なメス猫なんだ」
ミリアに平然と、満面の笑顔で答えるクライシス。
なぜか親指を立てて、ガッツポーズをしている。彼は変態なのだろうか。
『変態行為をつつみ隠さず自白するとは、あっぱれと言うか、さすが変態、いや、勇者じゃのう』
「うそ、わたし、メスねこ……? おとこ、ちがう?」
『いやいや、ここはヘンタイ、シネと怒るじゃろて。というか……まったく聞いておらんのう』
ミリアは悩んだ。あれは、ただの夢? 白い建物があって、たくさんヒトがいた。そして、自分は間違いなくオスだった。英雄、そう呼ばれていた。でも、ミリアはメスで、飼い主がいて、男と、散歩してた?
「だめ、どっちか、わからない、こまった」
ミリアのネコミミが、しょんぼり悲しそうにうなだれた。自分のことが分からなくなってしまった。酷く落ちこむミリアだった。
『さっきも、勇者に殺されてしまったしのう。かなりアホになったかもしれん』
「大丈夫だよ。ミリア、君は一生、僕が飼ってあげるよ。ああ、僕の可愛いミリア」
クライシスが何を言っているのかさっぱりだった。すべてが、たどたどしく聞こえてしまう。それは、ミリアの知力が1だから。それ故、考える力もない。
そして――
クライシスの魔の手がゆっくりとネコミミへとせまってくる。
「ああ、なんてキュートなネコミミなんだ」
クライシスは何を思ったか、ミリアの大切なネコミミをもふもふしだしたのだ。
「はにゃぁ~」
ミリアのネコミミは、触れられるとあそこがきゅんきゅんしてしまうのだ。
「ミミだめっ!!」
触らないで!! と必死に叫ぶミリア。ミリアのミミをもてあそぶクライシス。容赦ないクライシスの攻撃にミリアはついに撃沈した。
「や……めて」
1時間近く、ネコミミをもふもふされてしまった。
「あぁ……ぅ……っ」
感じすぎていってしまったミリア。簀巻きのままだと逃げることが出来ない。簀巻きにはかなりの欠点があった。もだえるミリアの側でクライシスは満面の笑みを浮かべていた。
『慈悲も容赦も持ち合わせておらんのう』