第59話 野良猫から飼い猫へ
まぶしい、てんじょう、みえる。
ここ、どこ。
やわらかい、これ、ふとん。
なつかしい、ゆめ、みた。
でも、わからない。
うん、おと、する、なに?
扉の開く音が聞こえる。
「うん?」
「ミリア、起きていたのかい」
ミリアの目の前に、謎の金髪イケメン男が現れた。
◇◇◇
エミリア視点。
「そういえば、何かを忘れているような。うーん、思い出せない」
エミリアは、モニカの寝室で給紙係をしていた。
エミリアは今日もコピー機の平和と安泰を守っているのだ。紙切れという事故を起こさないように。
給紙係とは、記憶力0に近いエミリアのために、いやいや、重要な仕事を任せられないと判断した職員達によって作られた部署である。ぶっちゃけ、エミリアを側に置くためという名目でモニカが職員を脅し作らせた部署とは口が裂けてもいえない。
「でも気になるのですよ。気になる、気になる」
「ほんと、気になりますわ。エミリアちゃんのことを思うあまり……わたくし、紙になってしまいましたわ」
手に持っている紙、白ではない、金色の紙から声が聞こえてくる。
「ま、まさか、この紙はモニカなのですか、どうして紙に、なのです……よ?」
「あらあら、エミリアちゃん、だめね。いつも側にいると、あれほど言ってあげたのに、そんな、エミリアちゃんにはお仕置きよ」
金色の紙が大きく伸びあがり、エミリアに襲いかかった。
「にゃあああああああ、首に巻きついてくるのです。息が、窒息するのです。あぶぶっ、ガクッ!!」
「エミリアちゃん。愛しておりますわ」
相変わらず天界は、平和だった。
◇◇◇
ミリア視点
「ミリア、首をおさえて何をしているんだい?」
「くび、いたい」
「首を痛めてしまったのかい。どれどれ、見せてごらん、特に外傷はないようだね、君が保護(監禁)できて、本当に良かったよ。君が闇夜の森に住んでいるとは予想外だった」
「もり?」
「覚えていないのかい。そうだね。君は、もしかして頭が……」
むね、むかむか。
そだ。
ミリアの手元に国語辞典が置いてあった。
それを手に取り、
ほん、ある。
せんせい、こうげき。
ミリアは、それをイケメン男に投げつけたのだ。
「いけめん、しね!!」
「な、なにをするんだい、ミリア!?」
『これぇ、なにをするんじゃ!!』
投げつけた国語辞典から声が聞こえた。
とてもなつかしい声がする。
どうしてか分からない。
「ほん、こえする?」
「ミリア、とうとう頭だけでなく耳まで、大丈夫だ。僕は君を見捨てない」
とりあえず、ミリアは、この男を無視することにした。
ミリアは、投げとばした国語辞典をじっと見つめる。
やっぱり思い出せない。
『やはり、人間ではその身体には耐えれんようじゃな。お主は死ぬ度に魂が劣化しておる。記憶に影響が出ておるようじゃ。それに身体がエミリアと同じで知力が足りないのかもしれん。まぁ、船酔いで何度か死んでもうたのかもしれんな』
「ほん、しゃべった?」
『そうじゃな。再度自己紹介しよう。わしの名は……』
こうして、ミリアの飼い猫生活が本格的にスタートしたのだった。
一体これからどうなることやら、それは神のみぞ知る。
「へくしょーん!! なのです。きっと、誰かが噂をしているのです」




