第5話 飼い猫ミリアは餌を要求する その2
「はむ、はむっ、ごっくん!!」
『これ、ちゃんとよく噛んで食べんとダメじゃろうが』
ミリアは夕飯の魚をあっという間に平らげた。
「むむっ!!」
足りない。これだけでは足りないのだ。魚の骨だけになってしまった皿を両手で持ち、クライシスに見せつけるようにして、メシを催促した。
つぶらな瞳でじっと見て――。
これだけじゃ足りない、あるなら、もっとだせ、さっさとメシをだせ、メシをと、ミリアは目で力強く訴えた。すごく真剣な表情をしている。つもりなのだが、ミリアならではのアホのせいで、少し間の抜けた表情になっている。
「み、みりあ……僕のでよかったらあげるよ。さかな大好きだよね」
「うむ」
クライシスから魚を奪ってやった、好物の魚をハムハムしてやる。良きかな、良きかな、貴様には褒美にこの骨をくれてやろう。
(くっ、ミリア、なんて可愛さだ。ミミをもふもふしてあげたい。あせってはだめだ。……彼女を保護(監禁)してから、まだ10日しか経っていない。愛情をより深めないと……)
クライシスは必死に欲望を押さえていた。ピクピク動くネコミミを見て、わなわな身体をふるわせながら……。
(くっ、君は、なんて罪作りな猫なんだ。僕を誘惑しているのかい?)
欲望をおさえこみ、クライシスが息を飲み込む。冷静にならないとダメだ、そう、自分に言い聞かせた。
「くっ、危ないところだった。なんて破壊力なんだ」
クライシスは、冷静を取り戻したようだ。再度、ミリアに話しかけようとしたのだが、
「……ミリア」
「どした?」
ミリアは首をひねりながら、きょとんと不思議そうな顔で、クライシスをじっと見ていた。そんなミリアを見たクライシス。
ぶちぶち!! 何かの糸が切れてしまいそうな、不思議な音がクライシスから聞こえてくる。
「ぅん。ふわぁ~」
ミリアはメシを食べたせいで、眠くなってきた。ミリアは大きなアクビをしてしまう。ミリアは、お腹がふくれて、ご機嫌なのか、鼻歌を歌いながら、ネコミミを激しくピクピクさせた。
そして――
「うにゃ、にゃ~ん!」
ミリアは、顔のお手入れをしようと、手をこまねきしながら洗うしぐさをはじめたのだった。食べた後は、お手入れもしなければならない、猫にとっては重要なことだ。キリッ!!
『いや、いや、いかんじゃろう!!』
ぷちーん!
それを見てしまったクライシス――
何かの糸が完全に切れてしまった。
(ミリア、許してくれ、僕はもう我慢できない)
ミリアは、どうやら、クライシスの自制心を粉みじんに砕いてしまったようだ。クライシスの欲求が爆発し、ミリアの身体をガシッと包み込むようにして抱きしめたのだ。
「もう、君を離さない!!」
「は、HANASE!!」
クライシスが、なかなか離れようとしない。全力で抱きついてくる。ミリアにとってはベアハッグ(プロレス技)されているのと同じことだった。
「し、しぬ。せぼね、やめ……て ……がくり」
クライシスの抱きつく力があまりにも強かった。勇者の力は伊達じゃない。背骨をへし折られては何度も死んだ。せっかく、知力が3になったのに……また1からやりなおし。はやく……ニンゲンに……なりたい。1時間後、ベアハッグに耐性無効がついて引きはがすことに成功したのだった。