第48話 ギルド試験 その3
「むむっ、あかねぎ、はなれる~!!」
ミリアはアカネギを手から放そうと必死だった。
だけど、にゃぁ~、ハナレナイ、こまった。
ミリアはミミをしょんぼりさせた。すると、その様子を見ていたジェイソンが、アカネギを見て、
「おい、なんだ、そのネギは?」
「うん?」
こいつ、だれ?
ミリアは自分に利益をもたらすヒト以外は、全くもって名前を覚える気がしないのだ。だからこの男はどうでもいい。ミリアは、現金なネコなのだ。
「むむっ!!」
だからミリアは、目の前にいる男を無視した。ミリアにとって、アカネギをはがす方が重要だった。
「おい、おまえ!!」
アカネギがミリアの言うことを聞かない。
ミリアの右手から離れない。
こまった、どうしよう。
ミリアは、またミミをしょんぼりさせた。
「おい、まさか……、そのネギがお前の武器なのか?」
ぶき?
ミリアはナイ頭で考えた。
ギルドの強化訓練を受けたとき、ミリアは色々と武器を試して見たが、全ての武器が反発し装備できなかった。武器には装備条件が設定されていて、ミリアのステータスでは扱うことができなかった。
ミリアはナイ頭でさらに考えた。
アカネギが自分の右手から放れない。なら……アカネギをこのまま武器にすればいいのでは?
そして――
「ねぎそーど!」
ミリアはアカネギを天高くかかげた。
ミリアは、ついに自分専用の武器を手にしたのだ。
ミリアの攻撃力が計測不能になってしまった。
ミリアは嬉しいのか、ほーら、ほーら、武器だぞ、すごいだろう、とアカネギを振り回して、ジェイソンに見せびらかした。
「てめぇ、ふざけやがって!!」
ジェイソンが怒りをむき出しにして、ミリアに剣を振りかざそうとした。
「うん?」
アカネギはミリアの右手から離れ、剣をもつジェイソンの右手を頭で殴りつけた。
「……え?」
ジェイソンの剣が、カランと音を立て……地面に落ちた。
ジェイソンは何が起きたのか、分からない。
自分の右腕を見たジェイソン――その右腕がありえない方向にねじれていた。
「ぐあぁぁぁ!! うでがあぁぁぁ!!」
その叫び声を聞いた周囲の者は何事かと思い、ジェイソンに視線を向ける。
「一体、どうしたんだ?」
「あれは、ジェイソンとアホのミリアじゃないか?」
「ミリアって誰だ?」
「ナタリーに毎日、縄で引っ張られてる、頭が残念な……」
「ああ、マグロ缶が大好きな……」
「なんでネギもってんだ?」
★★
ジェイソンは真っ青な顔をして、折れ曲がった腕を見ながら悲鳴をあげている。
「うでが……うでが……」
「うん、どした?」
ミリアはジェイソンに近づこうとした。
さらにアカネギは、ジェイソンの左手に向け頭を振り下ろした。
「ぎぃあああああ!!」
絶叫をあげるジェイソン、さらに左腕がありえない方向にねじれた。
「にゃひぃ!」
ミリアは、叫び声をあげ続けるジェイソンに驚いた。
ミリアは臆病なネコなのだ。
こいつ、こわい、おかしい、とっても、きけん。
だから、ミリアはゆっくりと、後ずさっていく。
ミリアだけじゃない、全ての者が見えなかった。
アカネギがミリアの手から離れ、ジェイソンの左腕を叩くところを……。
皆には、ミリアがぼーっとしながら、赤いネギを持って立ってるようにしか見えない。
一瞬だったのだ。
その一瞬にジェイソンの左腕がとんでもないことになったのだ。
皆、どうしてそうなったのか分からない。
ジェイソンが大声で泣き叫んでいる。
「な、なにがおこっているんだ?」
「ミリアが何かのスキルを発動したのか、いや、だが……、強化訓練でみたろ? ニワトリに負けた、あのミリアだぞ、それに本人もびびってないか?」
「だれか、助けにいったほうがいいんじゃないか」
「あ、そうだな、そういっても、なぜか、身体が震えて、これ以上は足が踏み出せないんだ」
だが、誰も助けに行こうとはしない。いや、助けに行けなかった。
恐ろしいほどの殺気が赤いネギから放たれているのだ。
そう、誰もがこの境界線に踏みいることができなかった。




