第3話 飼い猫ミリアは勉強する
「うん?」
いつの間にか……眠ってしまった。なつかしい夢を見た気がする。思い出そうとするけど、やっぱり思い出せない。
「むむっ!!」
また、眠くなってきた。うつら、うつら……
「…………」
ぼーとしていると、ベッドの上に転がっていた辞書が浮かびあがり、
「zzzzzz」
額めがけて、こつんと、ぶつかってきた。
「ひにゃぁ!!」
辞書のカドでぶつけられた。すっごく、いたい。
『これ、話の途中じゃぞ、寝るでない!! おぬしというヤツは…… ということが、今まであったんじゃ。ミリアよ、理解できたかのう? 『おれ』ではなく、わたしと言うのじゃぞ。それでのう……』
難しくて分からない。そういえば、国語辞典、じしょがレディの教育とやらをペラペラ本だけに話していた気がする。
「そんなわけで、理解したのかえ?」
「うむ、わかった」
とりあえず、返事をすることにした。
「てか、わかっておらんじゃろう。ほれ、仕方ない。今から、わしが言うことを、読み上げるんじゃ。ほれ、この絵本を読むんじゃ、今日は国語の勉強じゃぞ」
「むむっ!!」
絵本を手に取った。まったく、もって、わからない。
とりあえず……
じしょが話す言葉をそのまま、口にすることにした。
☆☆☆
わ、わたしは神の特権、神スキルをもっている。
私は、不老不死なのだ。
でも蘇るたびに記憶が薄れていく。
元人間だった私にかせられた代償。
『どうせ、わしのことを話しても理解できんじゃろうな』
彼女はミリアの本。
天界よりつかわされたお助けアイテム、国語辞典。彼女の言葉は普通の人間には聞こえない。
『……おぬしは、人とふれあう機会が少なかったんじゃ。おぬし、ちゃんと聞いておるのか? それでのう。なんという不幸か、男手一つで育てられてな。男言葉を使うのもしかたのないことなんじゃ。じゃが心配するな。おぬしを立派なレディにしてやる。どこへ行っても恥ずかしくない女に教育してやるからのう」
「うむ、わかった」
「はぁ~、おぬしはアホじゃからな、少しは、まっしになったかのう。ほれ、再開じゃ」
前世の私は人間だった。おれは……
『これ、おれじゃないじゃろう。わたしじゃろう。言葉遣いが間違っておる』
わ、わたしは、病弱な寝たきり少女で、いつも独り、飼いネコと戯れるだけの寂しい毎日を送っていた。そして、不幸が重なって、わたしは……死んでしまった。そんな、わたしを憐れんだ? 神様が、不老不死の肉体、神の身体を授けてくれた。それから、わたしは転生し、異世界へと旅だった。しかし、不老不死になったとはいえ少女である私の身体は弱い。あえなく草原で倒れてしまう。勇者はそんな私を、手厚く保護してくれた。
で、おれは、こいつのことを本当に信じていいのだろうか?
「むむっ」
三秒ほど考えた。
『どうしたんじゃ? 頭をかかえて』
「あたま、つかう、たいへん。あきらめる」
どうでもよくなった。あきらめた。
『そか、大変じゃのう。まぁ、わしが書いた絵本を毎日、朗読させて洗脳させておるんじゃ、そのうち読み書きぐらいはできるじゃろうて。今日はこのぐらいにしておくかのう』
おなかすいた。今日の夕飯はなんだろう。眠くなってきた。おやすみ。