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勇者の飼い猫になりました。  作者: 眠れる森の猫
第四章 脱出ネコ編
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第20話 ねぎ?

-side ミリア-


「……うん?」


 部屋中にジリジリと大きな音が鳴り響いた。

 音のする方に振り向くと、猫の目覚まし時計が鳴っていた。


「むむっ!!」


 もうすぐメシの時間だ。


☆☆☆


 鼻をくんくんさせて匂いをかぐ。

 食べ物の匂いがしない。

 お腹がすいた。

 我慢の限界だ。

 クライシスにおねだりしてやろう。

 ありがたく思うがいい。

 部屋を見回すが誰もいない。

 ミリアはネコミミをしょんぼりさせた。


「クラ、いない、こまった」


 このままでは体力が減って死んでしまう。

 ミリアのHPは1しかないのだ。


「もう、だめ。げんかい。しょくりょう、さがす」


 惰眠をむさぼったあと、餌を求める、これこそ猫道ねこどうである。


『レアな食材だけに一か月は帰ってこんじゃろう。まぁ、勇者のことじゃ、おぬしを飢えさせんようにするはずじゃが』


「クラ、もう、どうでもいい」


『かわいそうな勇者じゃのう。おぬしのために頑張っておるのに』


 住み家を提供してくれたことには感謝する。

 だが、猫は気まぐれなのだ。

 餌をくれるとき以外は寄り付かないのだ。

 というか、野郎はいらないのだ。


「さがす、たべもの」


 ……ミリアは部屋を荒らし始めた。

 食料を求めて――


「たべもの、どこ?」


 宝箱の箱、ふたつきの木箱を見つけては開けていく。

 だが、食料が見つからない。

 道具、武器、防具だけ……

 だが、ミリアは知らなかった。

 このアイテム一つで生涯暮らしていけるほどの価値があることに……


「ごみ、しかない」


 だが、ミリアにとっては、たべもの>>>>>宝である。

 けっ、いらねぇ。

 ゴミのように投げ捨てた。


『まぁ、今のお主は、価値観が猫じゃからな。しかたあるまい』


「うえる、しぬ。こまる」


『こまるのう』


「うむ」


『冷蔵庫はあるんじゃが、勇者という職業じゃ。毎日、魔物退治に励んでおるせいか、外食が多かったのじゃろ。キッチンがあっても、調理する食材がないと何もできん。勇者が忙しいときは、出来上がりばかりじゃったじゃろ』


「れいぞうこ、ある?」


『あるぞい。あの白い箱じゃ』


 ミリアは、満面の笑みを浮かべた。

 まるで女神のようだ。

 一応、身体は女神なのだが。

 

「やさい、たべる」


 ミリアは、すたこらと白い箱、冷蔵庫の元に向かった。


 扉を開けると……


「ねぎ?」


『うむ、ネギじゃな』


「なぜ、ねぎ?」


『さぁ~?』


 冷蔵庫には大量のネギが入っていた。


「……ねぎ」


 ミリアの中にいる存在が、絶対に食べてはいけない、と警告している。

 だが、だが、ぐるるぅ。

 おなかすいた。おなかすいた。おなかすいた。おなかすいた。おなかすいた。

 頭の中が、食欲に支配された。


「もぐもぐ」


 生のまま、我慢できず食べてしまった。


『これ、それは、いかん!!』


「じしょ、ほしいか? ねぎ?」


『おぬし、身体は大丈夫なのか?』


「からだ、なに?」


『ふむ、猫神だと普通のネギは大丈夫なのかのう』


「どした?」


『猫が食べると中毒を起こすかもしれん。簡単に言うと、ヤバイ』


「ほんと?」


『うむ』


 そう言われると息が苦しい。


『おぬし、顔が真っ青になっておるぞ』


「ううううぅ」


 息が、息が、できない。


『ま、まずいのう』


「はかられた。クラ、ゆるせない」


 飢えから解放されたミリアを絶望へと落とすクライシス。


「ち、ちきしょ……がくっ」


 ミリアはこうしてクライシスに恨みをいだきながら深い眠りについたのだった。

 そして、1分後、蘇る。忘れる。ネギ見つける。食べる。恨む。死ぬ。の連鎖を繰り返し。ミリアの頭がさらに馬鹿になってしまったのは言うまでもなかった。

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