第10話 真の勇者
ミリア視点
「ヤル!!」
このままでは、死んでしまう。
あいつをヤルしかない。
心の平和と自由を手にするため、ミリアは戦う決心をしたのだ。
☆☆☆
クライシス視点
「ミリア、どうしだんだい?」
僕は何かを期待するように彼女を見守った。
ミリアは僕に向けて人差し指を指した。
「これで、いちころ、かくごする!! ひっさつ、ごくじょう、すまいる」
なんだろう、この可愛い生き物は、無性にナデナデしたくなる。
「なるほど、それが必殺かい、あはは、これは、まいったな、可愛い笑顔だね。ミリアの笑顔はいつ見ても素敵だよ」
そうだね、ここは一つ。
彼女を温かく見守ることにしよう。
「あれ、て、とまらない、からだ、どして?」
ミリアは、パジャマのボタンを1つ1つ外していく。
僕に見せつけるように……。
ミリアの肌は白く美しい。
だが、彼女は一体、何を始めるのだろうか。
入浴の時間はまだのはず……
『あれじゃな、スキルの使用者の年齢によって、誘惑の仕方がかわるのかもしれん。元の世界では18歳までが子供、スマイル程度ですむんじゃが、こちらの世界では、13歳で成人なんじゃ。このままだとおぬし、勇者とヤってしまうかもしれん。まぁ、女なら通る道じゃしの』
「び、びーえる、だめぇ!! うぐっ!!」
『ふむ、スキルが完全に発動してもうたか。目の焦点が合っておらん。このままではR18に突入してしまうぞい。これは、さすがにだめじゃろな、なんとかせんと、困ったのう』
「ミ、ミリア、大丈夫なのか!? くっ、眩暈が……」
彼女を見ていると、頭が、いや、気のせいか。それにしても、ミリアの健康にはかなり気を使っているはずなのだが。
まさか、病に侵されて……。
やはり、ワクチンの接種をするべきなのだろうか。
だが、彼女を獣医にみせるわけにも。
それとも精神的な病を発したのだろうか。
……原因が分からない。
それに……。
ミリアは、よく独り言を言う。
あの夜のときもそうだ。
ミリアは辞書に向かって独り言を呟いていた。
心を守るためなのか。
きっと彼女なりに自己防衛をしているのだろう。
初めて出会ったときもそうだった。
僕に対してすごく怯えていた。
森に隠れる彼女を探すために、
「ホーリーブレイカ!!」
僕達をさえぎる邪魔な森を真っ二つに引き裂いたり、
「ひにゃあああああああ!! こ、ころされる!!」
彼女を保護しようと僕は必死に追いかけた。
「ま、まってくれ!! ウィンドクラッシュ!!」
邪魔な大木や岩も、風の精霊魔法で吹き飛ばした。
「ひぃにゃあああ!!」
彼女は必死に逃げようとする。でもダンジョンの中まで逃げるとは思わなかった。そして、苦労の末、彼女を保護することができた。
「にゃぁ~」
「さぁ、行こうか」
きっと、人間や魔物、様々な者達から迫害を受けてきたのだろう。
彼女は闇夜の森に隠れていた。
辺境の森の奥で彼女は身を隠し生きてきた。
だが、もう安心していいんだ。
ある国では不老不死の妙薬として君を狙っている。
首輪と鎖の効果のおかげで、君が見つかることはないだろうが……
だが、許せないな。君は僕のものなのに……
誰にも渡さない。そうだ。君のために頑丈な檻を買おう。
僕のかわいいミリア、大切に飼ってあげるよ。
「クラ、だいて……」
彼女は下着をはずし全裸となった。
ミリアは媚びた目つきで僕を見あげてくる。
そうだ。
この際、彼女のすべてを僕のものに……
“おさかな!!”
ふと、彼女の喜ぶ笑顔、魚を見て嬉しそうにする、そんな彼女の笑顔が脳裏に浮かび上がった。
「頭が、僕は何を考えていた。くっ、み、ミリア、僕は……」
『はぁ~、仕方ないのう、助けてやるか。世界にあまり干渉してはならんのじゃが、仕方ない。わしは、全年齢対象の本じゃからな。ありがたく思うんじゃぞ』
「クラ、きて……」
だめだ、もう限界だ。
ミリアを押し倒そうとしたとき、僕の頭に何か硬いものが飛んできた。
よく見るとそれは、部屋に置いてあった木彫りの彫刻、ミリアを模した彫り物だった。
『これでは、ダメじゃのう。次はこのタンスにするかのう』
木彫りのミリアは、猫たちに囲まれ幸せそうにしている。
僕は幼き頃に見た夢を思い出した。
草原で猫たちに囲まれ、ミリアが幸せそうにしている夢をだ。
僕を誘う彼女の笑み、これは本物なのだろうか。
いつも、ぼーっとしながら、
『おさかな、おおきい、うれしい』
そうだ、ミリアの笑顔はこんな感じだった。
『ありがと』
この笑顔が本物なんだ。
「くら、ほしい。さわって……」
この微笑みは、偽りだ。
「クラ、おねがい」
このままでは、いけない。
ぼくは、こんなことを君にしたかったのか?
君を守るために保護しようと決めたはずだ。
夢の中で笑っていた君のように笑ってほしかっただけなんだ。
まさか、夢で見た……君をボロボロにしたあの邪悪な男は……
僕なのか。
『やっぱり、この本棚にするかのう。いや、いっそ一思いに包丁かのう』
「ミ、リア、何をしているんだ! くっ、やめるんだ」
「が、がまん、しないで。わたしを、すきにして……」
まずい。
このままだと僕は君を……
「だ、だめだ、ミリア……」
「わたし、なんでもする、だから、すてないで……」
ミリアの手が震えている。
……怯えているじゃないか。
びーえる、だめ、たすけて、ぼす。とミリアは心の中で叫んでいた。
君の本当の笑顔を見たいから僕は君を助けようと思ったんだ。君を怯えさせるためではないはずだ。これでは、君を迫害する人間と同じじゃないか。
君と出会ったとき……そうだ、ネコミミと尻尾を見てからだ。
僕は惑わされていたのか、今まで僕は何をしていたんだ。
これは、まさか、彼女のスキル、自己防衛スキルなのか、天界の女神をも虜にしてしまうネコミミ族。ひ弱な種族のため、強いものに寄生しながら生きてきた。ある一説ではそう記されていた。
そんな自分を売るようなことを、君はしなくてもいいんだ。
そうだ、このままでいけない。
僕は、エクスカリバーの柄を強く握りしめた。
「精霊よ。我に力を……」
もう、君は一人じゃないんだ。
君の側には僕がいる。
僕が君を守ってあげるよ。
☆☆☆
『よし、これでトドメを、うん、なんじゃ? 勇者のツルギから光が、温かい光が満ちあふれておる。精霊神が舞い降りたのか、こ、これは、ほう、なるほどのう。どういう理由かわからんが、真の勇者に目覚めたようじゃ。神の呪縛、神スキルから逃れることができるとは人間とは不思議なものじゃのう。さてと、精霊神に事の顛末全てバレてしまったぞい、あの猫神はどうするのかのう』
憑依スキルの効果により、猫好きに対し100%の成功率をほこる魅了スキルと神スキルである極上スマイルが破られてしまった。このスキルは、一度かかると、解除することが不可能なはず、勇者の力、それとも思いの力、いや、愛の力なのか。
☆☆☆
「うん、わたし?」
「ミリア、もうだいじょうぶだ」
僕は、ミリアを安心させるように手を握った。
「なんだか、ねむい……どうして……ぅーん……びーえる、だめ」
するとミリアは、糸が切れたように倒れだした。普段、使わないような難しい言葉をつかったせいもあるのだろう。疲れて眠ってしまったようだ。
「君はなにも心配しなくていい」
僕は、眠るミリアをベッドへと運んだ。
「だから、安心して眠るんだ」
僕はミリアを見守り続けた。