第9話 飼い猫ミリアは戦うことにした。
ネコミミをはむはむされてしまった。もう、だめっ。がくっ、ミリアは、気を失い倒れてしまった。その後、ミリアを見た者はいない。
お し ま い。
「いやいや、ダメじゃろう。まだまだ続くぞい」
「うむ」
★★★
「気持ちよさそうに眠っている。このままだと風邪をひいてしまうよ」
床にうつぶせに倒れまま、もがき苦しむミリアは抵抗できぬまま、お姫様抱っこされてしまった。クライシスは、そおっと、ミリアをベッドに寝かせた。
そして――
「うん、これは?」
クライシスの足元に何かが落ちていた。よ~く見ると、段ボール箱が無造作に投げ捨てられ、爪でひっかいたあともあった。
きっと、ミリアが遊んだのだろう。
いや、ダンボール箱の開け方が分からないミリアは、必死にひっかいたのだ。開けることには成功したが食べ物はなかった。興味をなくしたミリアは、投げ捨てたのだ。
「ああ、そうだった、すっかり、忘れていたよ」
クライシスはニヤリと、怪しげな笑みを浮かべて箱の中身を取り出した。ダンボール箱から取り出したのは、可愛いらしいピンクの首輪だった。そう、これは勇者協会に依頼したオーダメイドの首輪だった。
「さぁ、ミリア、首輪をつけようね」
「……ぅ……っ」
クライシスは、眠るミリアの首に首輪をつけた。そしてミリアに手をかざし、ブツブツなにやら魔法のようなものを唱えはじめた。
そして――
唱え終えた時、首輪が淡いグリーンの光を放ち点滅しはじめたのだ。
そして、消えた。
クライシスの笑顔がより一層、眩しく輝いた。
「ああ、良かった。魔法が成功したようだ。これで、君は僕のものだ。その首輪、すごく似合っているよ」
クライシスは、椅子に腰かけミリアの髪を調度品でも扱うように、優しくなでた。
「君の髪は、まるで絹のようだ」
ミリアの寝顔を見守るクライシス。
「ああ、これが幸せというものなんだね」
クライシスは静かに二人だけの時間を満喫していた。
だが、そんなミリアは、
「た、たずげて、ぼすぅ」
うなされているようにも見える。
『おい、てめぇ、聞いているのか』
何やら怒鳴り声、いや、音声のようなものが聞こえる。よく見ると、クライシスの側に光り輝く球体のようなものが纏わりついている。球体は、クライシスを逆なでするようにペチペチと頬を叩きだした。クライシスのこめかみに静脈がうっすらと浮かび上がった。
『おい、まもの、でた、さぼる、しばく、ぞ。さっさと、こい』
電波が悪いのか、音声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「はぁ~、こんな時に魔物だなんて、許せないな。僕たちの邪魔をするなんて。そうだ。アベルも魔物と一緒にあの世へ送ってあげようか。アベルも死にたいらしいからね」
彼は本当に勇者なのだろうか。
闇落ちしている気もするのだが、気にしてはいけない
「ミリア、少し待っていてね。大人しくしておくんだよ、ああ、そうだった、さっき僕から逃げようとしていたね、本当に悪い子だ。だから念には念を入れておこうか。だって君は僕のものだからね」
クライシスは右手にトンカチ、左手に杭をもちだした。
勇者をやめて大工にでもなるのだろうか。
そして――
クライシスは部屋を後にした。
数分後、ミリアは目覚めた。
「つかれた、もう、だめ」
死ぬほど愛されて疲れた。
「これ、なに? じゃらじゃら」
ベッドの柱をよく見ると、ぐるぐると鎖が巻かれ杭が打ち付けられていた。
その鎖をなぞっていくとミリアの首輪にたどりついた。
これだともう逃げることができない。
「とれない。こまった」
これを引き抜くには力がたりない。
ミリアはミミをしょんぼりさせた。
『このまま行くと監禁エンド、猫まっしぐらじゃ。勇者は魔物ばかりを相手にしておるからのう。恋愛経験が少ないのもかもしれん。まぁ、ただのペットと思われてるかもしれんが』
「どした?」
『知らないほうが幸せなこともあるんじゃ。可愛いとは罪じゃのう』
……かわいいとはつみ。
「そかっ!!」
ミリアは何かを思い出したようだ。
「君の名前はなんて言うんだい?」
「おっす、わたし、ミリア(英雄)!!」
『そうか、ミリアか、かわいい名前だね』
わかった、ヤツは、わたしを可愛いと勘違いしている。
何度も何度も言われた。
きっと、目が悪い。
分からせないといけない。
わたし、かわいくない。かっこいいの間違い。ザ・イケめん!!
まちがい、ただす、ミリアは、そう思った。
数時間後、クライシスが戻ってきた。
「帰ってきたよ。ミリア、顔が赤いね。熱でもあるのかい?」
「わたし、かわいくない」
「真っ赤にふくれたミリア、すごく可愛いよ」
「かわいくない!!」
「あはは、ミリア、可愛いなぁ」
「ムキーーーーィ!!」
どうやら何を言っても無駄なようだ。
クライシスは手の平をそぉーっと、ミリアのおでこへおいた。
すると、ミリアはクライスをじーっと見つめた。
いや、睨みつけていた。
触るな、こらぁ~と、目で訴えていた。
「……ミリア」
「むむっ!?」
じーっと見つめ合う二人、二人は、まるで恋人のようだ。
いや、ミリアは目を反らしたら負けだと思い、必死に睨みつけている。
そしてタリナイ頭で考えた。
このままだと死んでしまう。(死ぬほど、愛されて)
逃げられない、説得ダメっ、こまった。
その時だった。
脳裏に映像が浮かびあがったのだ。
『ムキーーーーィ!! ばれてしまったら仕方がないのです。ここは実力行使なのです!! やってやるのですよ!! さぁ、食らうがいいのです!! 必殺!!』
こいつは、だれだ?
自分とそっくりだ。
でも、きっとコレをすれば、ヤツを倒せる。
「わたしも、ヤル!!」
ミリアは覚悟を決めた。
逃げることができない。
かんがえる、にげる、せっとく、ダメッ、なら戦うしかない。
ミリアは戦う道を選んだのだ。
仁義なき猫の戦いが今はじまるのだ。