始まりの歌
始まりは何もない真っ暗な空間でした。右も左も上も下も分からない所でした。
そんな中に女神様は生まれました。
初めは仄かな光でしたが、少しずつ光は強くなり真っ暗だった空間を飲み込む程の輝きになりました。そして光は人の形に変わり、女神様となったのでした。
一人ぽつんと生まれた女神様でしたが、寂しくはありませんでした。
生まれたばかりでも、女神様はまるで当たり前の様に小さな世界を造り出しました。
本当に小さな世界でした。一本の木と小さな泉があるだけの小さな小さな世界でした。
女神様は作ったばかりの小さな世界で、泉の縁に腰掛け足を浸しながら歌い始めました。それは、小さく囁く様な歌でした。
「愛しい人よ、ここへ来て。あなたに会いたい。私だけの愛しい人。どうかどうか会いに来て。私はここで待ってます。幾千の時が過ぎても待ち続けます。幾万の時が過ぎても変わる事なく。幾億の時が過ぎても果てる事なく。愛しい人よ、あなたに会いたい。どうかどうか会いに来て。私はここで待ってます。」
女神様は、まだ見ぬ大切な人への愛を歌いました。
何処に居るのか、誰なのかも分からない。それでも、女神様は歌いました。
まだ見ぬ誰かの為に愛を歌う女神様。小さな小さな世界に女神様の想いが溢れました。
すると、小さな小さな世界は女神様の想いに応える様に拡がっていきました。
大地が拡がり、泉が溢れて川が生まれ、草木が生え、花々が咲き、やがて生き物が産まれました。
人の姿で背中に翼を持った天使たちでした。
天使たちは、女神様の為に泉の近くに神殿を作りました。
女神様は、天使たちに感謝して神殿で天使たちと暮らしました。
それからは、毎日神殿で祈りを捧げました。
暫くすると、泉から出来た川の水が大地から溢れて女神様の住む神殿の下に二つ目の新しい大地が生まれました。
二つ目の大地には、中心に湖ができ、周りには実り豊かな森と大きな山々が生まれました。
湖にも、森にも、山々にも命が宿り、精霊たちが生まれました。草や花からは、妖精たちが生まれました。
女神様は、新しく生まれた命たちが穏やかに暮らしていられる様に、毎日祈りを捧げました。
また暫くすると、湖から川ができ、下に新しい大地が生まれ、今度は別の命たちが生まれました。
女神様は、毎日歌い祈りました。世界は少しづつ下へ下へと拡がっていきました。
女神様は、天使たちと世界を回り、沢山の命たちを祝福しました。
世界は、女神様の愛しい人への愛の歌と祈りから生まれたのでした。