借金令嬢は返済に生きる 女同士の内緒話
5年前にさかのぼっての事
エリンは久しぶりに公爵家を訪れていた。
公爵夫妻は孫の誕生に身体中から喜びが溢れている。
エリオットも我が子が無事に生まれた事、妻のアリシアも元気な事に、神に感謝していた。
とにかく、公爵家は喜びに包まれていた。
アリシアも幸せそうである。
大切な妹が幸せそうで、エリンも嬉しい。
アリシアと赤ちゃんとゆっくり楽しく数日を過ごした。
そこな、マデリーンも加わった。
マデリーンは王太子との間に二人の元気な男児を産んでいる。
公爵家夫人が言う。
「孫が3人。3人とも男の子ね。元気なら言うこと無いけど、女としては女の子も欲しいわ。そのうち、1人くらい。可愛いドレスやぬいぐるみを選びたいわ。」
マデリーンが、
「お母様、申し訳ないけど、私はもう子供は、って。」
言いにくそうに言った。
マデリーンは一人目の王子は安産で産んだが、二人目の王子の時は難産だった。
マデリーンは生死の境を彷徨い、医師が帝王切開で赤子を取り上げた。その後もしばらく体調が優れなかった。
マデリーンを深く愛している王太子がマデリーンにもう二人の王子がいるのだから、これ以上産まなくて良い、と妊娠しない様に気を付けている状態だと言う。
マデリーンは公爵夫人とアリシアにはここまでで話をやめた。
産後のアリシアの身体をいたわり、母子の部屋を出た。
マデリーンがエリンと込み入った話をした事は、夫人もアリシアも気が付かなかった。
マデリーンの部屋で、マデリーンは人払いをした。
「久しぶりにエリンと話したいから。女同士の話が聞きたくて。」
メイドに紅茶と菓子を用意してもらった後、二人きりで話をした。
「レイナルトとあまり上手くいってないみたいで、心配していたの。レイナルトはエリンが大好きなのに。やはり、領地の事で?」
「ご心配おかけして申し訳ないです。わかっているんですが、私がレイナルト様に借金させている事で、申し訳なくて。」
「夫婦で対等でないと、言いたい事が言えなくなるわよね。」
「負い目があります。」
「そう。私も、今苦しいのよ。」
「お幸せそうにお見受けしますけど?」
エリンは不思議に思った。
マデリーンは王家の秘事だけど、と前置きして話をした。
王妃様が隣国の大国の王女である事。王妃様は5年ほど前に病気で亡くなっている。
王妃様がご結婚される時、隣国の父王や兄(今は国王)が溺愛する王女を他国に出す事を反対していた事。
王妃が、アリステア王国王太子が好きで、反対を押し切り嫁いてきた事。
その時の大国との約束があり、王妃の産んだ子供を1人、祖国に迎え、王族と結婚させたい、と取り決めがあった事。
大事な王女が嫁ぐ国であるから、関税をお互いかけないとしてあるおかげて、アリステア王国がかなりの恩恵を受けている事。
しかし王妃は男児二人しか恵まれなかった。
王位継承権を持つ男児を大国とはいえ、他国に出すことは出来ない。
王妃が若くして病死した時、大国はかなり怒った事。
王太子と第二王子が相次いて留学し、祖父母と伯父達に可愛がられたことで、怒りは溶けて関税もそのまにしてもらっている事。
新たに二人の王子の子供を大国にやり、新たな縁を結びたいと両国で決めている事。
それなのにマデリーンが二人の王子しか産めていないこと。
マデリーンが危険でも、もう一人授かりたいと話をしても王太子が許さない事。
「妻が死にかけたんだぞ。まだ幼い子がいるのに。あんなに恐ろしい思いをしたことは無い。
最悪、関税をかけられて苦しくなったとしても、マデリーンを失うよりは。」と王太子はマデリーン言う。
それならばと、マデリーンが側妃を勧めると王太子は激怒した。マデリーンだって、夫に他の女性を勧めるのは本意ではない。
そこで、マデリーンは第二王子夫妻に相談したが、こちらも深刻だった。
王太子夫妻が結婚した数カ月後、第二王子も結婚した。
その後、数回妊娠したが流産を繰り返していると言う。
医者から、子宮に問題があり胎児が育つことが出来ないのだろう、と言われている、と。それでも妊娠しようと頑張っているが、やはり流産してしまう事。
第二王子の所でも、側妃をと考えているが、夫婦仲も良いので、お互いに困っている事。
そしてマデリーンが王太子を騙して、妊娠しやすい日にベッドに誘った事。王太子の方でもマデリーンの体調を把握しており、あっけなくバレて口論になって、今ケンカ中である事。
お互い思いあっているのに、ケンカしてしまうなんて、とマデリーンが苦笑した。
しばらく聞き手役にも徹して相槌を打つのみだったエリン。
その後は他愛のない話をしたが、エリンは頭の中である考えが浮かんでいた。
そして、マデリーンに提案した。
自分がそばにあがり、子供は授かるようにし、子供を夫婦に差し上げることは可能ですか?と。
マデリーンは扇を落とした。
「大事な弟の妻に、そんな事をさせるわけないでしょう!」
「私は借金を返済したいのです。王家ならかなりの金額を出していただけるのではないですか?」
「馬鹿なことを言うのはやめて。レイナルトがそんなに困っているなら、お母様に相談なさい。助けてくれるはずよ。」
「マデリーン様が話を繋いで下さらないなら、他に考えます。
嫌ですけど、先日隣国の商人が言伝で、さるお方が私をお望みで大金を払う、と言ってきましたの。レイナルト様は追い返しましたけど。ずっと、考えていましたの。その方に私を買っていただこうかと。お父様が3億リブルの借金をした時も、娼婦になろうと思いました。隣国のさるお方の愛人の方が、良い話だと思っていました。でも、お子がほしい方にお子様を授けるお手伝いができればと思いました。けれどマデリーン様がお繋ぎしてくださらないなら、愛人の話を受けるつもりでおります」
「エリン、私を脅しているの?やめて。」
「マデリーン様を苦しませてしまう事は出来ません。こうして親戚になったのですもの。第二王子夫妻にお話を繋げてもらえませんか?」
「エリン、お金の事なら、私も協力するから、馬鹿なことはしてはいけないわ。」
「授かりものですから神様の思し召しがあれば、ですが。全て丸くいきます。借金がなくなる。王太子様もマデリーン様とつまらないケンカをなさらなくなります。第二王子夫妻にお子様が産まれて。アリステア王国の民も安心です、隣国との絆がより確かになります。」
「あなたが犠牲になるじゃないの!レイナルトだって!」
「ですが、マデリーン様。関税が掛かるようになれば、どれだけ困るかおわかりでしょう?」
「そう、だけど。でも、ダメよ。」マデリーンの声が震える。
「私がお子を授かることができれば」エリンが力強く言った。
そしてエリンは姿を消した。
第二王子夫妻が王都のハズレに離宮を用意した。
月に数日間王子が離宮に滞在する。
エリンが姿を消して1年後、第二王子夫妻に可愛らしい姫が生まれた。
大国から王太后が訪れた。曾孫の誕生を大層喜んだ。
王太子の息子たちと友好を深めた。
愛娘の孫がいる国と言う事でこれからも友好国である事を約束した。
第二王子の姫が、亡き娘の目の色髪の色である事を殊の外喜び、ぜひ長じたら我が国に嫁いで欲しいと要望して王太后は帰国した。
王太后は曾孫娘を、大国の王位を継ぐ王太子(3歳)の王妃にと、内々に打診していった。
エリンが離宮に入った後、レイナルトに2億リブルが届けられ、エリンが姫を産んだあと、ローラン子爵家に3億リブルが贈られた。かつて、エリンが名乗ったエリィ・リンドの名前が添えられてあった。
しかし、エリンは行方不明のままだった。




