部屋を用意してあげよう
コリン先生の家の2階の一室をリアの部屋とすることになった。
先生に言われ、空き部屋になっていたその部屋をテオとルークは掃除した。
先生が2階に上がって来た頃には、部屋は家具はもちろん塵ひとつない、何もない殺風景な空き部屋となった。
「さて、ウェステリア嬢。壁の色は何色がいいかね?」
彼女は先生を怖がっているのか、テオの後ろに隠れているリア。
先生は仏頂面で陰気な雰囲気なため、子供に印象が悪いので、彼女の反応はしょうがないかもしれない。
しかし、無駄な時間が嫌いな先生のため、テオは返事を促すよう声をかける。
「好きな色でいいんじゃない?」
リアは恐るおそるといったように顔を出し、
「・・・青。」
とか細い声で呟いた。
「ふむ青か。それはこんな青かね?」
先生がパチンっ、と指を鳴らす。
すると部屋の壁一面が深い青色になった。
「どうかね?それともこちらの青かね?」
先生が再び指を鳴らせば、壁は夏の晴れた空のような、水色に近い青となった。
先生が驚いた表情で壁を見渡しているリアに尋ねる。
「どうかね?」
テオの後ろに隠れるのをやめたリアはコクコクと頷いている。
「次にベッドは白で揃えておこう。机と椅子も白で良いかな?本棚は壁に合わせて同じ色にしておこうかね?ウェステリア嬢はまだ背が低い。高さはこれくらいで、棚は2段くらいでいいだろう。クローゼットはこちらに作っておこう。小さくてもウェステリア嬢は女性だ。プライベートのバスルームがあったほうが良いだろう。こちらの色は・・白でいいかね?」
先生がまるで指揮者のように手を振るごとに、部屋の中に家具が次々と現れて内装が変わっていく。
「ふむ、少し壁が殺風景かもしれんな。こんな感じでどうかね?」
最後に先生は部屋の天井に白い雲の絵と、壁の床付近に花の絵を足した。
よく見ると、その白い雲は本物のようにゆっくりと少し動いている。
壁に現れた花も、庭に咲いている花壇の花と種類が一緒だ。
「何か変えたいものがあれば、遠慮なく言うように。」
(あの先生が、この部屋を?)
見事なまでの少女趣味が詰め込まれた部屋を目の当たりにしてテオは驚愕する。
40過ぎの独り身の男が、レースのふりふりカーテンまで施された部屋を創造した。
いや、これ以上は考えない方がいいだろう。
先生はテオにとって尊敬する魔法使いの1人で、それ以上でも以下でもない。
「せんせい、すっごーい!」
いつの間にか近くで先生を見上げて、目をキラキラと輝かせて感動している様子のリア。
「満足しているようで結構。その他、細々した物はテオに揃えてもらうように。」
ニコリともしない先生は、そういうと部屋を出て行った。
改めて部屋を見回し、バスルームに目が釘付けとなるテオ。
(専用のバスルームまでって、僕より待遇良くないか?)
テオはルークと一つのバスルームをシェアしている。
同じ部屋代のはずなのに不公平を感じる。
「これがレディファーストってやつか?」
羨ましそうにバスルームを覗いているルーク。
「いいなぁ、リアちゃん。俺たちの部屋よりいい部屋貰って。しかもテオと同じ南向き。いや、俺は別に今の北向きでもいいんだけど。」
窓の外にある庭を眺めているルーク。
「ここ、リアのおへや?」
同じように窓を外を覗き込んでいたリアが、ルークを見上げた。
「そうだよ。リアちゃん1人の部屋だ。」
「あれもリアのベットなの?」
「そうだよ。ここにあるの全部リアちゃんのものだ。あのクローゼットに今日買った物さっそく入れような!」
白いクローゼットを指さすルーク。
リアはテオを振り返り、嬉しそうに満面の笑みを向けた。
「ここ、リアのおへや!」
「はいはい、そうだね。」
彼女がやっと子供らしい無邪気な笑顔を見せたことに、どことなくほっとしたテオ。
(あの温室で見たような暗い顔は、できればこの家では見たくないな。)