正気を失った猛毒との闘い(後編)
「シールド解除!」と、叫ぶ。
少々と言うか、かなりの強行手段だがこれしか方法が無い。
シールドを解除した瞬間、かつて無いほどの強烈な目眩に襲われる。
幻毒の影響だ。
予想に反して、発症が早すぎる。それに話に聞いていた症状では無い。何故だろうか、幻覚・幻聴は発症まで時間がかかるのか?
「まあいい、目眩は幻覚・幻聴よりまだマシだ」
話と違うから少々驚いているが、すぐに魔法を放つ準備をする。
「燃えろ。火炎放射」
ユルい感じになってしまったが、何とか魔法(火炎放射)を放つ事が出来た。結果オーライだ。
だがしかし、ファントムオオサソリは燃えない。何故だ。
完全に幻毒に気を取られていたせいで忘れていた。毒類全般は可燃性物質だ。幻毒の竹林の中では、何時どこで大火事になってもおかしくない。なのでここで生きていくには、火・炎に強くなくてはならない。つまり属性だ。
「ただでさえ時間が無いのに属性の不一致で無効とかありかよ!最初の難関はそうあまり難しくないのがお約束なのに」
いくら魔法界の世界最強とはいえ、シールドを解けば生身の人間だ。幻毒の影響もダイレクトに受ける事になる。
「くっそ、世界最強でダンジョン無双なんて妄想していたが、そう上手くは行かないってか」
頭でも口でも愚痴を語っていても仕方ない事に気づき。すぐに次の魔法を放つ準備をする。
「凍れ。氷塊の術」
何とか、相手は氷付きこちらの勝利と言うわけだ。しかしながら、身体は強烈すぎる幻毒に耐えきれず、横たわってしまう。
急いで、自分の身体に治癒魔法を放つ。何とか一命は取り留めたが、体力までは回復せず体力を絞り出すようにシールドを展開し、少しの間仮眠を取る事にした。
1時ぐらいだろうか、仮眠をとった。胸ポケットに忍ばせていた、懐中時計は、午前11時30分を指している。
体内時計もちょうどその頃だ。いくら幻毒の竹林とは言っても、時空まで狂う事は無いのと言う事だろうか、
体調は最良ではないが、さっきの死にそうな程でも無い。少しは身体を休める事が出来たそうだ。
「体力残量も50パーセント位だろう。まずまずだな」
だが、ここから竹林の出口まで30キロ程距離がある。休憩を挟みつつ進む事になるだろう。
もうこれ以上敵が現れない事を祈りつつ、歩を進める。
「と言うか、はらへったー」
"腹が減っては戦ができぬ"とはまさにこの事だ。家を出てから、まともな物を食べていない。食べたものと言えば、
持ってきた、ドライフルーツのマンゴー4切れ位だ。(あれ、俺ってすごくない?)しかしながら、食べ物を生成する能力は持っていない。(本当に世界一なのか俺?)生憎と、食糧はドライフルーツしか持って無い。何故かって? "日持ちする"からだ。
(単純な男だろ!)
「狩りをしろと言う事なのか? そんなのやった事無いのに」
なんにせよ魔法の火力が高過ぎて、燃やせば、骨すら灰になり、凍らせば、火あぶりにしても溶けなくなる。 こんな状態でどこをどう食べれば良いのか、
ふと、家を出る前の考え事を思い出す。
(剣はいらないか)
「もしかして剣なら、首を刎ねるだけで相手の息の根を止める事ができる。狩では役立つかもしれないな。でもまだ魔法の魅力には及ばないがな」と、魔法をよいしょしつつ剣の強みを感じた。
そしてまた空腹をしみじみと感じならがも、歩き始める。