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留年はしたくないですね。

 その時浮かんだ悪魔の閃き。

 僕はにやりと歪む口元を隠し、一人勝利を確信した。


「・・・・・・ふむ。佐々よ、確かに貴様はやりとげた」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 なぜ二回言った?


「だが、忘れたか? 貴様にこれを渡した時の、僕の言葉を」

「なにかミスを・・・・・・?」


 ふっふっふ。怯えるがよい。やはり貴様は恐怖に震えている姿こそ相応しいのだ。


「僕は言った。これで半分だと」

「・・・・・・わかりました。ノート買ってきます」

「待て待て! なぜそうなる⁉」

「? もう一冊分書き写せって言うんじゃ?」


 ああそういうことね。僕の言い方が悪かったね。


「違う、そういうことではないんだ。貴様に課したもう一つの課題。すなわち試験において総合一五〇位以内がまだ達成されていないではないか!」

「そ、そうだった・・・・・・!」


 試験の結果が発表されるのは来週の半ば。余裕である。それまでになにかしらの指導方法を考えればよい。


「今までなあなあにしてきたが、もう一つの課題が達成されない限り、正式に貴様を弟子として認めるわけにはいかんなあ~」

「ホントはとっくに認めてるくせに、素直じゃないよね」

「紗綾子は黙っていなさい。これは僕ら二人の問題だ」

「お兄ちゃんキライ。もう一緒に寝てあげない」

「え、ウソウソ。さーやも仲良しグループの一員に決まってるじゃん。だからそんなこと言わないで?」

「師匠キモイ」

「だからそんなこと言わないで――ってお前佐々か! こびへつらって損したわ!」

「師匠ヒドイ」

「というわけだから、結果が発表されるまで待つんだな。貴様の留年もかかっていることだし、最後の数日、学校生活を満喫しなさい」

「りゅ、留年・・・・・・! 師匠酷いよ! せっかく忘れてたのに!」

「忘れるなよ。それに本当に留年と決まったわけではないだろう。成績は確実に上がっているだろうし、一年近く猶予はある。その間に成績の維持向上を行えば問題ない」

「いいえ、師匠は学年主任のあの顔を見ていないからそんなことが言えるんです。あの恐ろしげな表情! 立ち上る邪悪なオーラ! まるで悪魔の様でした」


 禿上がった頭と眼鏡をかけた優しげな風貌の教師を捕まえて、悪魔とはよく言えたものだ。


 大体、先生はお前を心配して、本来なら極秘の情報をわざわざ教えてくれたんだろうが。

 めちゃくちゃ優しいよ。教師の鑑だよ。


学生時代は教師のお説教を煩わしく思いましたが、今になって思います。先生たちみんな、すごい仕事してたんだなぁ、と。

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