5 夕闇のストーカー
佐久間くんのピンチです。
皆さんはストーカーというものをご存じだろうか?
それは時に大胆に、時に姑息に人々の日常を脅かす紛うことなき犯罪者である。こういった犯罪の被害にあう人とは、大抵誰もが振り向く美人であったり、コミュニケーション能力が高すぎて、すぐに異性に勘違いされてしまうような軽薄男であったり、はたまた別れた元亭主、もしくは妻といった具合の事情をお持ちの方々。つまり男女間の痴情のもつれが主な原因を占めていると言われる。
なにが言いたいのかというと、僕にはストーキングされるような身に覚えが、まったくないということだ。
これまで女子とお付き合いなるものをしたことは皆無だし、お世辞にもコミュニケーション能力が人より優れているわけでもないことは、高校に入学してから今日まで、体育の時間の二人組作ってーという言葉に怯え続け、クラスメイトから一度として遊びに誘われた経験がない上、未だにお前誰だっけ? と、本気で言われていることからも、容易に想像できる。自然、未婚の少年である。
ちらりと後ろを振り返る。夜が迫る住宅街。電灯の明かりもまばらなそこには、誰もいないように見える。
しかし、僕は見てしまった。路地の奥、そこに蠢く黒い影を。
見間違いではないか? そう思い、歩き出すふりをしてもう一度振り返った。そこには慌てて身を隠す不審者の姿!
(超こえー! マジで、ホントに、超こえー!)
不審者。不審者である。ニュースで取り上げられる類の犯罪者予備軍である。彼らは大抵地味な服を着て、人気のない夜の街に出没するのだ。ほとんどが無職の男性で、イタズラ目的で少年少女に声をかける・・・・・・。
この恐怖を、どう表現すればよいだろう。誰もいない夜の街で、ニュースに出てきそうな不審者に追いかけられ、今まさに、自分にイタズラしようとしている・・・・・・。
「イタズラってなんだイタズラってなんだイタズラってなんだイタズラってなんだ」
背中を流れる汗が尋常でない。寒くもないのに、体が震えてしょうがない。
思えばこの一週間、やつは僕が一人になる隙を狙っていたに違いない。もしかしたら、あの親戚からの差し入れだと思っていた食料にも、何らかのイタズラがされていたのでは?
「うおあああああああおろろろろろ!」
もはや限界だった。恥も外聞もなく僕は駆けだした。
同時にあまりの嫌悪感からゲロを巻き散らしもした。しかし止まることは決してなかった。
ここで立ち止まったら、きっとイタズラをされる。それは恐らく、放送禁止用語を軽く一〇個は詰め込んだ、破廉恥かつ残虐非道な行いであるに違いないのだ。
ピンチはまだまだ続きます。