49 涙の後に
やっぱり優しいさーやちゃん。
「むー。いいじゃん、たまには」
ふくれっ面の紗綾子は頭がおかしくなるくらいかわいい。だが頬をにやけさせるわけにはいかない。ここは兄としてきちんと教育しなければ。
「師匠、どういういことですか? さーやちゃんが師匠の真似をしたって・・・・・・?」
「そのままの意味だよ。本当なら、さっきの台詞は僕が言うはずだったんだ。『自惚れるな!』の後からだな」
「でも、なんで?」
「お兄ちゃんが隠れてたから」
「うぐ! ・・・・・・確かにそれもある、が! 目的はもう一つ。ここにいる三人のわだかまりを解消するためだ」
「お兄ちゃんは病み上がりだから、これはさーやの役目だと思った。さーやうまくできたかな?」
「ああ、できすぎだ。でも、二度としないと誓ってくれ。そういう汚れ役は僕の役目だ。さーやは天使らしく、人々の愛を一身に受けていれば、それでいいんだ」
佐々にも理解できるよう順序立てて僕は説明した。
三人が三人共落ち度があり、それぞれが怒りを共有していることをだ。
「でも、本心じゃないんだよ? みどりんはもう、お兄ちゃんの中で大切な人になってる。それを認めたくないだけの強がりだから」
「そんなことはない。今回は師匠としての責務を果たしたにすぎん。今も昔もこれからも、永遠にぼっちを貫く覚悟が僕にはある。紗綾子さえいてくれれば、それでいいのさ」
「お兄ちゃんキモイ」
やはりかわいい僕の天使。ひとしきり紗綾子を愛で終えた僕は、佐々に向き直った。
「というわけだから、佐々よ。僕はお前に酷いことを言ったが謝らんぞ。僕はなーんにも悪くない。強いてあげるとすれば体調管理がなっていなかったことと、言葉遣いが過ぎたことくらいか。それ以外はマジでなんにも悪くない」
「素直じゃないよね。心配するな、ごめんで済むのに」
「弟子に心配なぞされてたまるか。そんな暇があったらネタの一つでもひねり出せ!」
「ははは。師匠、さーやちゃん、おかしい・・・・・・」
佐々はそう言いながら泣いていた。みっともなく狼狽える僕。
「え? え? なんで泣くの? 僕? 僕か? 僕のせいなのか?」
「みどりんかわいそう。お兄ちゃんがキモ過ぎて泣いちゃった」
「ううん、確かにちょっとアレだけど「アレってなんだ⁉」そうじゃないの。私、嬉しくて。師匠とさーやちゃんが、すっごく私を大事にしてくれてるのがわかったから」
そういうことは口に出すな。長ったらしい文句で煙に巻いたのに台無しじゃないか。
「私も大事にする。絶対絶対大事にする。師匠とさーやちゃんのこと、絶対見捨てたりしない! だから、助けがいる時は真っ先に声をかけてね! 力になるから!」
佐々に助けを求めるなどそうそう来ないと思う。そんなことを言うのは、さすがに野暮か。
「私、がんばるね! がんばって師匠の弟子だって胸を張って言える弟子になるからね! 首を洗って待っててね師匠!」
「ちょっと待て、お前は僕の命を狙っているのか? 洒落にならんからやめて」
「そうだ師匠!」
「ああ、無視するのね。別にいいよ慣れてるから」
なんかいろいろ悟った僕の前に一冊のノートが差し出された。
はて? 教材にこんなノートあったかな?
「違いますよ師匠。課題です」
「課題? なんの教科?」
「だから、小説の」
「ああ、小説・・・・・・。うええっ⁉ それってまさか――」
僕はノートを受け取るとパラパラと捲ってみた。
「はい! 終わらせて来ました!」
ノートはすべてぎっしり埋まっていた。
佐久間くん、血の気が引く。




