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41 合宿③

佐々さんの笑顔のために頑張れる。

 試験の日程は二日間。初日に国英数の三教科、二日目に理社の二教科が行われ、どちらも試験終了後は放課となる。


 実質半日授業なので、初日は家に帰って翌日の試験の対策、二日目は大体遊びほうけるためにあると言っても過言ではない。


「・・・・・・終わった」

「一応聞いておこう。それはどっちの意味でだ?」


 試験初日が終了した。僕らは大多数の例に漏れず、学校からすぐさま帰宅することを選んだ。


 正直言って試験中も、そして帰宅中に至っても僕は気が気でなかった。


 学校ではできるだけ無関係を装っているため、テストのでき栄えを佐々に訊ねることができなかったからだ。


「なんで学校で話しかけちゃダメなわけ~? 師匠のガキンチョ」

「話をそらすな。人間関係に煩わされたくないだけだ。考えてもみろ。クラスの人気者である貴様と、クラスの厄介者である僕が一緒にいたらどう思う。どう考えても妙な勘ぐりをされるに決まっているだろう。そんな考えしか浮かばない低能連中の相手をして、お前の執筆活動が阻害されたら目も当てられない。これは師匠として当然の判断だ。だから、もしなにか聞かれるようなことがあっても、僕らの関係は絶対秘密だ」

「ちぇー。師匠がそう言うならそうするよ」


 この不出来な弟子は不満を隠そうともしない。今だって口を尖らせぶーぶー言っている。


「それで、実際どうだったんだ? テストのできは」

「んー、わかんない」

「わからないことはないだろう。正直に言ってみろ。怒らないから」

「やっぱり師匠ママみたい。できは多分・・・・・・悪くなかったよ」

「悪くない。悪くないと、今そう言ったか」


 佐々はバカだが嘘はつかない。そんな彼女が試験のできは悪くないと言ったのだ。恐らくそれは大きく間違った自己評価ではないのだろう。


「そうか、そうか! 悪くなかったか!」

「でも本当にわかんないよ? 答案は全部埋められなかったし」

「いや、それでいい。解けない問題に時間と労力をつぎ込んでも仕方ないからな。しかし悪くなかったか。そうかそうか」

「師匠、なんだか嬉しそー。変なの~」


 佐々はようやく笑顔を見せた。


「変なものか。僕は師として弟子の行く末を案じてだな・・・・・・」

「うん。ありがとー」


 無邪気な笑顔を見せる佐々。


 疲れのせいで大分やつれてはいるが、まったくこいつはと思わずにはいられない。そんな無防備な顔を男の家で見せるんじゃないというのに。


 しかし喜んでいられる時間は短い。なにせ試験は明日もあるのだから。


「えー、ごほん。ではそろそろ始めるぞ。残り二教科。死力を尽くせ」

「了解であります、師匠(マスター)!」


 こうして最後の追い込みが始まった。


 死力を尽くせなどと言ってみたが、今日の勉強は軽めで終わらせるつもりだ。明日に疲れを残させてはいけない。練習問題を終えた佐々に小休止を与えた。真面目なことにすぐに教科書を目で追い始める。

 休めと言っているのに、こいつは・・・・・・。


「しかし、ぐうたらなお前が今回はずいぶんがんばったな。なにか理由でもあるのか?」

「えー? 師匠が言ったんじゃん。勉強は小説を書くにも役に立つとかなんとか」


 一瞬呆ける僕。


「・・・・・・ああ、そうだったな・・・・・・。あーもー! お前というやつは!」

「えー、今怒るとこー?」

「怒ってない! さあ勉強を再開するぞ! もたもたするなペンを持て! 文句を言う暇があったら単語の一つでも暗記しろ!」

「英語はもう終わったじゃん」

「口ごたえするな!」


 絶対こいつにいい点をとらせてやる。

 夢だって、諦めさせてやるもんか。


次回、佐久間くんの様子が…?

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