39 合宿②
徐々に信頼関係が構築されていきます。
「さーや、すまんがまた頼む」
「あいよ」
紗綾子はポッキーを口に含んだままひょいと立ち上がると、スタスタと部屋に入り、軽々と佐々を担ぎ上げベッドまで運んだ。
いつもながら見事な手際だった。
「紗綾子は見た目によらずパワーがあるな。初日に雇っておいて正解だった」
「別にお菓子に釣られたわけじゃないよ。みどりんは友達だから、無償でも協力は惜しまんよ」
「ふん、バカ弟子にはもったいない友人だ」
初日に佐々の運搬を断念して以来、佐々の身の回りの世話を一日五〇〇円分のお菓子で紗綾子に依頼していた。
友達思いな上に働き者な僕の天使は期待した以上の活躍を見せ、今ではこうして佐々を運ぶのはもちろんのこと、一緒に風呂に入っては溺死を防ぎ、着替えを手伝っては下着のつけ忘れを防いでくれている。
食事も日に三度、栄養バランスを考えつつもボリューム満点のものが隣家から支給されるのだ。正に勉強をするための理想の環境と言ってよい。これで成績が上がらなかったら僕が発狂する。
とはいえ、本人にやる気がなかったら、僕だってこうまでして力を貸すことはしなかった。
佐々はどこまでも本気な女の子だ。
それは勉強でも変わらない。
勉強も本気、小説も本気。後は道さえ示してやれば、この弟子はどこまでも真っ直ぐ進んで行けるだろう。そう思えただけで合宿をした意味がある。
「さて。では、始めるか」
「がってん」
僕らは眠りについた佐々に手をかけた。別にやましいことをしようというのではない。僕は肩と腕の、紗綾子は足のマッサージを行うのだ。
「師匠にここまでやらせるとは、やはりこいつはどうしようもないバカ弟子だ」
それ以前に、こんな無防備な姿を男の前にさらすな。後で真似しないよう紗綾子に言っておかなくてはならない。
「お兄ちゃん、すっごく楽しそう」
「楽しいだと? おいおい、菓子の食い過ぎでおかしくなったんじゃないか? 正にお菓子いってか? なにが楽しくて他人を家に泊めてベッドを占領され、あまつさえ深夜まで勉強を見てやらにゃならんのだ」
とか言いつつ、顔がにやけているのを僕は自覚していた。
こんな顔佐々には絶対見せられない。戦争映画に出てくる鬼軍曹の如く佐々に接している僕のイメージが台無しになる。
「素直じゃないんだから」
「・・・・・・」
こうして連休の夜は更けてゆく。マッサージが終わったら僕も自分のことに集中だ。
「お兄ちゃんも、あんまり無理しないでね」
「平気さ」
なにせ僕の体は紗綾子の優しい言葉があれば、不眠不休で一週間は動けるようできている。毎日顔を合わせている今、エネルギーは常に満タンだ。
泣いても笑ってもあと三日。やれることはすべてやってやる。
「だからがんばれよ。僕の弟子」
さーやちゃんは力持ち。お菓子が原動力で動きます。




