19 大天使さーや
やっとプロローグが終わります。
予想に反し伸ばされた手は僕の頭に置かれ、優しくなでなでしてくれた。
「おおう、どうしたさーやよ。お兄ちゃんびっくりしたぞ」
「たまに褒めてあげるのが、うまく犬を躾けるコツなんだよ?」
「さーやの犬なら歓迎だが、しかしなあ・・・・・・」
「わかってるよ。自分は褒められる資格なんてないって思ってるよね。すごい責任背負っちゃったもんね。それをきちんと果たすまでは例え妹からであっても、なにも受け取る資格なんてないって、そう思ってるもんね」
「なんで心が読めるんだ。やはり天使か」
「別に天使なんかじゃないけど、わかるよ。だってお兄ちゃんだもん。それに、お兄ちゃんは自分で思っているよりもすごいことをしたんだよ」
「すごいこと? 今日の僕はと言えば、女の子二人に気絶させられるか、根拠のない大見得を切ったことくらいしかやっていないが」
「ううん、それがすごいことなんだよ。普通はこんな面倒なこと、あんな面倒くさそうな人に頼まれたら断るもん。なのにお兄ちゃんは、あの人の期待に応えようとしてる。あの人の希望になろうとしてる。本当は自分にそんなことができるのか不安なくせに、そんな自分のことより、あの佐々って人の夢と希望を大切にしてる。そんな人いないよ? だからさーやは、お兄ちゃんが大好きなんだよ」
なんと紗綾子がうっすら微笑んでいた。
それは肉親にしかわからない些細な表情の変化であったが、この世でただ一人のさーやマニアを自称する僕にははっきり見て取れた。
「紗綾子、結婚しよう」
「んー、今はちょっと、それは勘弁願いたいなあ」
「いいさ! これからじっくり惚れさせてやる」
「その自信がどこから来るのか、まずそれが知りたいよ」
「自信ならあるさ! 紗綾子をこの世で一番愛しているという絶対の自信がなあ!」
「まあ、がんばってみてよ。さーやはごはん食べてくる」
そう言い残すと紗綾子は振り返りもせずに部屋を出ていった。きっと照れ隠しに違いない。
とにかく愛しの紗綾子にああも期待されている以上、手を抜くわけにはいかない。
僕はやる。
「やってやるぞお!」
誰もいない部屋で、僕は決意を声に出して叫んだ。
さーやは優しいなぁ。




