表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EScaPE  作者: MII
5/6

三章

遅くなりました。

更新いたします。

「………」

にらめっことは本来、子供たちが、どちらかを先に笑わせるために面白い顔をして、

相手を笑わせる速さを競う遊びである。

「………」

もちろん、今そんな事をしているのは、小さな子供でもなければ、

相手を笑わせるためでもないので、

「…………zzz」

と、気づいたら寝ってしまっている。


「zz……ぅ〜〜」

小さく唸り声を上げる。

「こ、こんなもの…………ゎあかるかぁ!!」

唐突に、意味不明な言葉を口にして、再び静かになった。








 「ただいまっと」

家のドアが開く。

家というよりは、倉庫に近い。外壁から屋根まで、その全てがトタンで構成されている。

「お〜い、なつ〜。調子どうだったよ」

作業着姿の男性が、声を張り上げる。


しばらく待っても返事がこないのを不思議に思ったのか、男性が奥まった場所にある部屋のドアを開ける。

「なつ〜……って寝てんのか…」

仕方ないと言うようにため息を一つつき、いったん部屋を出る。

「いいね〜大学生は…まだまだ気楽で」

別の部屋から持ってきたタオルを、椅子に座って机に突っ伏している少年、捺伎の背中に掛けた。

「へっ、よだれなんて垂らしやがって……」

男性が小さく微笑む


「どうせこいつのバスタオルだから…起きたらそのまま風呂に行くだろ」

踵を返す

「まぁ、幸運なことに朝までに起きれて、掛かってるのがバスタオルだって気づいたら、だけどな」

肩を竦め、ハンっと鼻で笑う。

と、その場で立ち止まり、もう一度机の上のものに目をやる。


「…なんだよ……ありゃあ」









 夢を見た




悪夢だった


真っ暗で何も見えない場所

それでも、どこか懐かしい感じがして…悲しい感じがした


誰かの声が、遠くから…本当に遠くから…微かに聞こえた

誰かの名前だ…


それは……自分の名前ではない




そう思うと、今度はすぐ近くで、声が聞こえた


一つではない

少なくとも……二十


ひとたび声が発せられれば、それは波紋のように広がって行き、唐突に消える




目の前が、急に明るくなった

明るすぎて、純白で包まれた世界しか目には入ってこない


声も、暗闇と同時に消える


他にも色が無いか……探した…ずっと探し続けた


また暗くなってくる………暗闇に戻ってしまうのだろうか…



もがいた…もがき苦しんだ

そして、白が消える最中…手が何かに当たる…


同時に、暖かさを感じる……


それは、動かせた…手前に引き寄せられる

この何も無かった世界で唯一触れられた もの だ


慌てて手繰り寄せる

何なのか、見てみたかった…一人から…抜け出したかった


そして、白は一抹の筋になる


それを、白と言う名の光……暗闇に捕らわれない存在に、当てた



見えたものは……赤かった





自分の生首が白目を剥き、何かを言いたそうに小さく口を開け、こちらを見ていた










「だはっ!」

瞬間的に目覚め、自分の今いる状況を確認した。


「…あぁ…寝ちまったのか…」

椅子に座ったままの捺伎が、ホッと胸をなでおろし、髪を掻いた。

「ん?これ…」

背中から滑り落ちたバスタオルを見る。

そのまま、少し考えた

「……親父が帰ってきたのか」

だるそうに椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。

節々が痛い。椅子で寝てしまったせいだ。


と、机に目がいった

「…ぁ」

まだまだ眠くて細くなっている目を、全快にまで大きくした

「あ〜〜〜〜〜!!」

お腹の底から声を出す。

そのまま机に手を突き、机の下を見、部屋中を見、鞄の中を見て…部屋を隈なく見て回った。


「な、無い……」

頭を抱える。

そして


「ま、いいか」

開き直った。

「どーせ無理やり頼まれたもんだしな。

俺を追ってきてるって奴がこっそりと持ってったんだろぅ。うん」

一人で勝手に納得し、部屋を後した。


と、ドアを開けたところで、父親と鉢合わせになってしまった。

「お、起きたか捺伎」

「親父も今起きたのか?」

目を合わせずにすかさず聞く。

「いや」

という返答に、捺伎が父親の方を向いた。「俺は昨日の夜から寝てねぇ。

お前さんが持ってきた変なもんをずぅっっっっっっと見させてもらってた」


 返答に迷った。

「…俺何か渡したっけ?」

「いや、勝手に取ってった」

そして、ポケットから出したそれを見せた。


緑色、どちらかといえば翡翠に近い色だ。

反対が見えるほどに透き通っている。

しかし…その形はどう見ても単三乾電池だった。


「ん……んー……あ……あ〜〜〜〜〜〜!」

父親のその手から、翡翠のそれをひったくる。

「お、親父てめぇ…」

「なんだ、何か大事なものだったのか?」

「だいじっつーか何つーか…大事なもんだ」

嘘八百

「そうか…んで……これなんだ?俺が見たところ……結論は良く分からない

ものとして可決されたんだが」

捺伎がキョトンとする。そういえば、昨日もそれが分からないまま寝てしまったんだ。

まさか、この機会ヲタクの親父にも分からないなんて…


「んー……」

暫しの黙考

後に訪れる“よく分からないもの”というレッテル

そして決断

「電池だ…見た目通り」

文字通り、この場合見た通りであろうか。横着な決断をした。

「……そ、そうか」

父親が意外そうな顔をする。

そして、すぐに口を開いた。

「やっぱり…思ってた通りだ…」

「…へ」

どうやら聞いてみる必要があるようだ。








 ヘリコプターが海上を旋回している。

すぐ下あるヘリポートには、すでに別のヘリコプターが着陸していた。

切り立った岩場の上に、建物からまっすぐに伸びるその道は、人が二人並んで

通るのがやっとなほど、細かった。

降りた男たちは、かれこれ三十分戻ってきていない。

「…下の奴らはまだかよ……燃料切れちまうぜ」

パイロットが愚痴をこぼした。

後ろに振り返り、そこにあるものを見た。


黒い棺


その蓋には、大きくティアラが描かれている。

他に乗組員はいない。孤独である。

「…これって……やっぱり死体なのか」

胸の前で十字を切って、小さく祈った。

と、下のヘリポートに人影が現れた。


手には誘導灯を持っている。大きく手を動かし、何かを伝えていた。手旗信号だ。


「ん…反対側の格納庫に入れ……か。おせーんだよ。ったく…」

悪態をつきつつも、その指示に従う。




 「長旅ご苦労様です。これはお駄賃とでも思ってください」

執事のような身なりの老人が話す。

無事に格納庫に入れると同時に、周囲を銃を持った男たちに囲まれ、積荷だけ

降ろされる。

積荷は荷台に乗せられ、奥へと運ばれていった。


「…あ…あのさ」

パイロットが周りの男たちを指差す。

「あぁお気になさらずに。積荷が積荷ですので」

駄賃といって手渡したスーツケース一杯のお金。

ただは運ぶだけでこの金額は、さすがに不安だ。

「それと…本当にこんなに貰っちまってもいいのかよ」

パイロットが何度も聞く。その度に積荷が積荷ですので、とあしらわれる。


「そうか…ま用が済んだから、俺はこれで帰らせてもらいますよ」

「はい。お気をつけて」

そう言って、ヘリが飛び立った。

格納庫を出る。


また、広大な大海原の上へと出た。


「…はした金。悔いは無いとおっしゃっていました。

こんな古典的で、美しくないやり方ですが……少しでも手がかりになるようなものを

残しておいては、いけませんからね…」

パチンと、指を鳴らした。

同時に、ヘリコプターが大爆発の後に砕け散る。

雪のように、燃えるお金が降っていた。

その炎は、青かった。

「まだ改良の余地ありですね…もう少し融合密度を上げても、然程放射能は拡散

されないでしょう。まさに、一石二鳥…重ねて感謝します…そして、さようなら」

執事が周りの男を引き連れ、格納庫を後にした。




 格納庫の先は、まるで中世の城そのものだった。

赤いカーペットの敷かれた絨毯。

壁には様々な絵画が飾られている。

所々にあるドアも、彫刻で彩られている。



「ヴィヴィス、積荷が届いたと聞いたが」

貴族の格好をしたような男が、歩いてきた。

マントをひらつかせ、腰には細剣をさしている。

まだ若く、容姿も中々のものだった。

「あぁエルサイオル卿。今お部屋に伺おうと致しておりましたのに」

「いい。我輩は早く会いたいのだ」

「…ただいま用意されたお部屋へと運んでおります。

メイドのものが着替えをさせておりますので、暫しお待ち――」

「あの部屋に居るのだな、よし分かった」

「え、エルサイオル卿!」

「直接会いに行く。爺は晩餐の仕度だ」

「…御意に」



 バンッ、と大きな音を立てて、ドアが開く。

荘厳な世界が広がった。

歴史の教科書に出てくるような、貴族的な部屋が広がる。

それには、何か圧倒されるようなものがあった。


中に居たメイド達が、そそくさと出て行く。

「おぉ、会いたかったぞ」

エルサイオル卿の目線の先。そこに居たのは、まだ幼い少女だ。

歳は12〜3程度だろう。

ピンクのドレスに身を包み、俯いていた。

長いブロンドの髪が、光で輝いていた。


エルサイオル卿が両手を広げ、少女の元へと歩み寄る。

それに気づき、怯えたように天蓋つきのベッドの方へと逃げた。

「…我輩を知らないか…まぁ、初めて会ったのだから無理も無いな…アミティ…」

少女がハッとする。

エルサイオル卿の顔を見た。

「ん〜、美しい。やはり私の目に狂いは無かった…」

軽く頬を赤らめ、アミティがまた顔を背ける。


「…不安かな……」

エルサイオル卿が聞く。

「君は我輩について何も知らないが、我輩は君について何でも知っているのだよ」

近くにあった椅子を手に取り、座った。


「ロク=ケリームス=アミテルシア。故ロク=ケリームス=トクスラット殿下の愛娘。

殿下…大統領の方が良いかな…今や君を知らないものは、この世界中で居ないはずだ」

アミティが俯いたまま聞く。

「…その特異な遺伝子から、君は世界中の人間から追われるようになった。

しかし、殿下の手元に居るため、誰も手が出せなかったがな…」

エルサイオル卿が立ち上がり、アミティに近づく。


「ある日、殿下の部下に謀反者が生まれた。それにより、殿下は暗殺…

残った君は一人で逃げることになった。しかし、その顔は既に知れ渡ったもの。

たとえ貧しい庶民であっても、捕まえて金に換えようとする始末だ」


アミティの肩が、小刻みに揺れた。

頭に、エルサイオル卿の手がポンと置かれる。

「……逃げて逃げて、最後は我輩の依頼主に捕まった…よくもまぁ、三週間も逃げ切れた

ものだ。感心しよう」


一息つく。アミティが泣き始めてしまったせいだ。

「辛かったろう…もう安心しろ。我輩が責任持って―――」

エルサイオル卿が、話を切らす。

そして、アミティの顔の近くへと耳を寄せた。

「……………」

「…もう少し、大きな声で話してくれないか…」

「…うして……とうさま…ろされ…」

嗚咽でかき消される言葉を理解したかのように、ルサイオル卿は笑みを浮かべる。


「どうしてお父様は殺されてしまったのか……いたってシンプルな質問だ」

大きく笑う。それは、嘲笑に近かった。

髪の毛を力いっぱい引っ張り、顔を天井に向かせる。

「あなたのその目、その目ですよ!」

突然、口調が変わったかのようにエルサイオル卿が吼える。

「片側だけ、あなたの目の片側だけ、その力が欲しいのですよ!」

アミティの琥珀色の右目と、翡翠色の左目から、大粒の涙が零れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ