君が一番大事
現実世界・恋愛(GL要素を含みます)
*
『好き』の一言は重くて、でも、言えないのが辛くて。
女の私にそういわれても困るだけって知っている。
でも、君が一番大切だから―――
「好き。……好きなの」
頭がもうろうとしている中、私は吐き出すように言った。
もう抑えきれない。
でも、お酒の力を借りなきゃ、いうこともできない言葉だ。
「ねぇ、世界で、一番好きよ」
愛してる。
私のかなで。
「みなちゃ~ん」
私はいつもすごい勢いで自分に抱き着いてくるかなでが好きだ。
「会いたかったぁ!」
私は少し会わなかっただけで寂しがるかなでが好きだ。
「だ~いすきっ!」
私はいつも隣にいてくれるかなでが好きだ。
かなではいつも私のそばにいてくれた。
それだけだったけど、それだけだったから、私はかなでを好きになった。
でも、好き、といえることはなかった。
私はかなでが大事だったから。
かなで。
私の世界を変えてくれたかわいいかわいい女の子。
かなでだけが大事だから、だから、私は絶対に言わないよ。
お願い。
幸せになって。
私のかなで。
「みなちゃん、明日が結婚式なのに、つぶれちゃったら遅れちゃうでしょ~?」
かなでが心配そうに私の背中をさすったことで、私は目を覚ました。
そうだ。ずいぶん飲んでしまったんだった。
でも、起きないと。
明日は結婚式だ。
大事なかなでの。
かなでと、斎藤くんの。
「そうだったね。もう、帰らないと」
「うんうん。明日は楽しみにしててねっ!」
そういってかなでは私に冷たい水を渡してくれた。
一回眠ったおかげで酔いはだいぶ醒めている。
そういえば、意識が遠ざかる中で何か自分が行ってしまった気がする。何を言ったのだっただろうか。
「ねぇ、かなで、私が酔ってる間になにか変なこと言わなかった?」
「えっ? 言ってないよ。みなちゃんってお酒強いからここまで酔うのをはじめてみたけど、すぐに寝ちゃうタイプなんだね」
そうか。何も言っていないならいい。
私はほっと息をついた。
「まあ、ここまで酔ったのは久しぶりだよ」
「どうかしたの? 珍しいね」
「まあ、……失恋、かな」
「ええっ!? みなちゃんがフラれたの!? どこぞの男に!?」
かなでは驚いて、もっていたビール瓶を落とした。
咄嗟に私はそれをキャッチする。
「っと。フラれてないよ。ただの片思い」
私が答えたはいいものの、かなではその男を殴ってやらないと気が済まないとなぜか息巻いていた。
本当に、夢中になると人の話を聞かないのは昔からなんだから…。
「だーかーらー、片思いして、その人に相手ができただけ。勝手に想って、勝手に失恋したんだったってば。もー、ガラス持っている時は気を付けないと、斎藤さん」
斎藤さん、と私が言ってビール瓶でかなでを指すと、かなでは顔を真っ赤にした。
ああ、私のかなでは可愛いな。
「まっ、まだ、斎藤じゃないよっ! 矢代! 明日までは矢代だから!!」
かなでは火照った顔を冷やす! と言って台所に下がっていった。照れ屋なんだから。
私はまだ余っているイカの燻製を口に運ぶと、まだ余っていたウィスキーを仰いだ。氷が解けてしまっていて、微妙にぬるい。ああ、スモークチーズが食べたいな。
「……もう、こんな風に会えないのかな」
私しかいないのにその声は響くことなくすぐに消えていった。
「ねぇ!」
私は台所にいるかなでに聞こえるように大きな声を出した。
もう遅いから近所迷惑かもしれないけど、今すぐに言いたかった。
「幸せになって!」
それだけ言うと、私は今日の飲み代を机に置き、コートをすぐに羽織ってかなでのアパートを後にした。
やけに外の空気が肌を刺す。
それでも、涙は流れ続けて、その筋を冷気が凍らすようだった。
好きよ。
好き。
世界で一番好きよ。
愛してる。
奏。