闇に沈んだ君は、
異世界・ファンタジー
*
それは決戦の日。
彼女は仲間とともに、圧倒的な強さを誇る彼の前になすすべもなく膝を折っていた―――
「全て、君のせいなんだよ―――」
耳元で紡がれたそのは残酷で、冷酷だった。
「全て、君のせい。
ぜーんぶ、ぜんぶ」
彼が薄く笑うたびにわたしの心に少しずつ、少しずつ、ヒビが入っていくようだった。
「聞いちゃダメだ!!
そんなやつのこと、聞いちゃダメだ!!
正気を持て!!」
仲間の必死に叫ぶ声もわたしには届かなかった。
ただ、ただ、彼の言葉だけがジワリと心に沁みついて、侵食していった。
「あははっ?
今気づいた?
それとも、もう気づいていて気づかないふりをしていたの?
―――全て、君のせいだってこと」
戦いに疲れた体は重かった。
それ以上にその言葉はわたしにのしかかり、押しつぶすように圧をかけていった。
「だってそうでしょ?
君の母親も、君の弟も、君の幼馴染も、君の友達も、君がいなければみーんな、みんな、幸せだったのにね」
彼は指をゆっくり折りながらわたしに見せつける。
「わ、…たし、は……」
わたしが何か言おうと思っても、喉に突っかかって言葉にならなかった。
それがまるで彼の問いの答えを自分が表しているかのようで、涙が出てきた。
「君が最初から決断していればよかったんだ。
そうしたらもっと犠牲者が減ったのに」
ね? と問われても、わたしは答えることができなかった。
「だからさ、今からでもいいよ。
俺の下においでよ」
彼はすっと白い手を差し出した。
その誘いは恐ろしいのに、酷く、―――魅力的だった。
わたしは無意識に、縋るように手を伸ばした。
本当に、これでいいのだろうか?
誰かが頭の中で問う。
でも、この手を取れば楽になれるんだよ?
誰かが耳元で囁く。
「ほら、おいで」
薄く笑う彼の表情は凍えるくらい冷たいのに、とても、楽しそうだ。
この手を取れば、わたしもこんな風に楽しく笑えるようになるだろうか?
もう、笑うことなんて忘れてしまった気がする。
いつから笑っていないかさえ覚えていない。
―――だって、だって、知っていた。
わたしのせいでみんなが不幸になった、ってこと。
母が狂ってしまったのも、弟が動けなくなったのも、幼馴染が癒えぬ怪我を負ったのも、友達が死んでしまったのも、ぜんぶ、ぜーんぶ、わたしのせいだ。
いつだって気づかないふりなんかしたことない。
誰かに言われなくても、彼に言われなくても、ずっと、最初からわかってたことだ。
だから、もう、解放されたい。
彼の手は、ひんやりとしていて、いやに気持ちがよかった。
―――何かがパリンと割れる音が、どこか遠くで響いた。
闇落ち主人公が書きたくて。